専門委員会成果物

合理的侵害の確信に基づく特許権行使は,米国特許法285条の「例外的ケース」にあたらないと判断された事例

CAFC判決 2017年6月5日
Checkpoint Systems, Inc. v. All-Tag Security S.A., et al.

[経緯]

 Checkpoint Systems, Inc.(C社)は,自己の盗難防止用のタグに関する特許が侵害されたとして,All-Tag Security S.A.(A社)等に対して特許侵害訴訟を地裁に提訴した。
 地裁は,A社の行為はC社の特許権侵害行為に当たらず,敗訴当事者に勝訴当事者の弁護士費用を負担させることができるとする特許法285条の「例外的ケース」にあたると判断し,弁護士費用等を 含むおおよそ660万ドルの賠償金をA社に対して認容した。
 C社は,地裁の判決を不服としてCAFCへ控訴し,CAFCは,地裁による費用転換の原理の適用に誤りがあったとする判決を下した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁の特許法285条の決定に対する裁量権の乱用についてあらゆる側面で見直しを行った。
まずCAFCは,C社がA社のビジネスを妨害する等の不適切な目的で訴訟を提起した,と地裁が判断しているが,そもそも特許法は特許発明を侵害する者を排除する法的権利を付与するものであるので, この権利の行使は特許法の下で「例外的ケース」にはあたらないと判断した。つまり,相手方を悩ませたり負荷を掛けたりするための「動機付け」は,「例外的ケース」に当たるものであるが, 合理的な侵害の確信に基づいて訴訟を提起する特許権行使の動機は,不適切なものではないと認めた。
 またCAFCは,本来の被疑製品はA社がベルギーで製造したタグであるにもかかわらず,A社がスイスで製造したタグに基づいて特許権侵害をC社が主張したことについて,「例外的ケース」を 構成する被疑製品の調査の失敗と地裁は判断していたが,そもそもベルギーの被疑製品と調査されたスイスの製品とが異なるということに関するA社からの陳述は存在せず,C社の不誠実さや 詐欺の疑いは存在し得ないと判断した。
 そしてCAFCは,弁護士費用の賠償は,特許侵害訴訟に勝利し損ねたことに対するペナルティとして用いられるべきものではない,特許法285条の背後にある立法上の目的は,当事者が深刻な 不公正を受けることを避けるためのものである,こと等を述べ,地裁の判断を棄却して,「例外的ケース」の判断において,侵害の告訴は合理的であり,訴訟は悪意の確信や戦略の下でなされたものではないと結論付けた。

(吉田 拓也)

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