専門委員会成果物
IPRの決定で用いられた引例に対しては，特許権者に十分な通知と反論の機会が与えられるべきと判断された事例
CAFC判決 2017年６月15日EmeraChem Holdings, LLC v. Volkswagen Group of America, Inc.
［経緯］
EmeraChem Holdings, LLC（Ｅ社）は，発明者CampbellとGuthによる，エンジン触媒を再生する方法に関する特許5,599,758（’758特許）を保有している。IPRにおいて，PTABは， ’758特許のクレーム１〜14および16〜20が特許5,451,558（’558特許），特開昭62-106826号（Saito）および特許5,362,463（Stiles）により自明であると判断した。これを不服として，Ｅ社はCAFCに控訴した。Ｅ社は，’558特許は米国特許法102条（ｅ）の先行技術ではなく，また，クレーム３，16および20の却下の理由として挙げられたStilesに対しては， 対応する十分な通知と機会がなかったと主張した。
［CAFCの判断］
� �558特許に対する判断：’558特許の発明者には，CampbellとGuthに加え，DanzigerとPadronの名前があったが，Campbellのデクラレーションは，「Guthと私が’758特許で請求された全ての発明の唯一の発明者である」と 宣言することに加えて，「Guthと私は，’558特許に開示されている以下の主題を単独で考案し，発明した。」と主張するだけのものだった。
CAFCは，Campbellのデクラレーションは，’558特許の引用部分が「他人」によるものではないことを実証するには不十分であるとして，’558特許が特許法102条（ｅ）の先行文献となるというPTABの判断を支持した。
�▲�レーム３，16および20に対する判断：
Volkswagen Group of America, Inc.の申立ては，「クレーム１〜14と16〜20は，’558特許とHirotaまたはSaitoのどちらかの組み合わせにおいて，Stilesの観点から見ると，特許法103条（ａ） により自明である」と広く主張するものであったが，従属クレームであるクレーム３，16および20については，Saitoが唯一の参考文献であり，Stilesは引用されていなかった。
CAFCは，上記状況からクレーム３，16および20の却下の決定に対しては，PTABが行政手続法（APA）の通知の要件に違反し，Ｅ社は引例のStilesに関して対応する機会を失ったとして，その決定を退け，差し戻した。
（大脇 知徳）
