専門委員会成果物

引例を組み合わせる動機づけは,クレームの組み合わせを形成するために特許中に示されている動機と同じである必要はないとした事例

CAFC判決 2017年6月16日
Outdry Technologies Corp. v. Geox S.P.A.

[経緯]

 Outdry Technologies Corp.(O社)の保有する特許6,855,171(’171特許)は,皮革と裏地の間に半透性の膜を設ける皮革の防水加工方法であり,接着点パターンを半透膜上に設定し皮革へ直接圧着する。 独立クレーム1では接着点の密度を,独立クレーム9では接着点の大きさを規定している。
 Geox S.P.A.(G社)は,IPRにおいて,’171特許が先行技術の組み合わせにより自明と主張した。PTABは,防水だが通気性のある服飾品に関する特許5,244,716(Thornton)が, 接着点の密度と大きさ以外の要件をすべて開示しており,当業者は,接着点の密度と大きさを開示する,“Coated and Laminated Fabrics”(Scott)と3層構造の靴下に関する特許6,139,929(Hayton)を, Thorntonに組み合わせる動機づけがある,と判断した。
 O社は控訴した。

[CAFCの判断]

 ScottとHaytonのどちらも,同業分野の水不透で透湿性の布に関する。Scottは,透湿性を維持しながら少ない面積で良好な接着力を得るために,半透膜に適用する接着剤の量を最適化することを 示しており,ScottとHaytonは,半透膜を通気性層(皮革)へ接着するための,接着点の密度や大きさを開示している(その範囲は’171特許と重なる)。
そして,PTABはこの動機づけについて,理由を証明し,合理的に説明し,証拠の引用をして理由のサポートを行っており,十分に検討して判断しているとみなした。
 引例を組み合わせる動機づけは,引例自体に明示されていようと,当業者の常識等をよりどころとしていようと,クレームにたどりつけば十分であり,クレームの組み合わせを形成するために 特許中に示されている動機と同じである必要はない。
 PTABは,先行技術を組み合わせる動機づけを,’171特許の発明者が直面する課題に限定することを要求されていない。この点はKSR最高裁判決で「特許権者を動機づける課題は, 特許の主題によって解決される多くの課題の一つに過ぎなくてよい」と明確に否定されている。O社はKSR判決の“addressed by patent”の部分を,’171特許で特定される課題で なければならないと解釈しているようだが,KSR判決もそれ以降のCAFCの判決も,組み合わせの動機づけをそのように限定していない。
 以上のことから,CAFCは,PTABの判断は何ら瑕疵がないものとして,これを支持した。

(渡辺 喜彦)

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