専門委員会成果物

特許法145条の定めに従い,原告は手続にかかるすべての費用(USPTO側の弁護士費用含む)を支払わなければならないとした事例

CAFC判決 2017年6月23日
Nantkwest, Inc. v. Joseph Matal(USPTO長官代行)

[経緯]

 原告であるNantkwest, Inc.(N社)は,原告出願についての審査にて自明性を理由に拒絶された。N社は特許法134条(a)に基づく審判請求を行ったがPTABは審査官の拒絶を肯定した。 N社はバージニア東部地方裁判所にて特許法145条に基づく審決取消訴訟を提起した。
 特許法145条(審決取消訴訟)は,第134条(a)に基づく審判請求に係る特許審理審判部の決定に不服がある者は,連邦巡回控訴裁判所に対して控訴が行われている場合を除き, バージニア東部地方裁判所において,USPTO長官を相手とする民事訴訟により救済を受けることができるとしている。そして,当該手続にかかるすべての費用は出願人が支払わなければならないとしている。
 地裁は,USPTOが支払った“expense(費用)”のうち専門家費用については手続にかかる費用と認めたものの,弁護士費用を手続きにかかる費用とは認めなかった。
 USPTOはこの決定を不服として,CAFCに控訴し,弁護士費用は特許法145条に規定されている手続きにかかる費用である旨主張した。

[CAFCの判断]

 一般に“American Rule”では,勝訴または敗訴に関わらず,法律や契約が別途定められていない限り弁護士費用は各当事者が支払うとされている。
 しかしながら,CAFCは,特許法145条は弁護士費用を手続にかかるすべての費用と認めており,審決取消訴訟手続には“American Rule”は適用されないとの考え方を示した。
 また,CAFCは,standard legal dictionaries and treatiesは“expense(費用)”の定義及び説明をサポートしているとし,たとえば“Wright & Miller on Federal Practice and Procedure” という辞書には“expense(費用)”は弁護士費用を含んでいるとの考えを示した。
 CAFCは,弁護士らの行った政府のための仕事は“fee(料金)”というよりも“expense(費用)”であるとし,USPTOが支払った弁護士費用は手続にかかるすべての費用に含まれるとの考えを示した。
 CAFCは,特許法145条の手続は,USPTOに過大な負荷を与えているとの考えを示した。USPTOにかかるこの負荷は,本件のすべての費用の70%以上を占める弁護士費用に特に 関連しており,原告はUSPTO側の弁護士費用を支払わなければならないとし,棄却,差し戻した。

(浅井 興二郎)

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