専門委員会成果物

ミーンズプラスファンクションクレームの解釈は,PTABによる審理においても特許法112条 パラグラフ6に基づかなければならないとされた事例

CAFC判決 2017年7月7日
IPCom GmbH & Co. V. HTC Corporation

[経緯]

 IPCom GmbH & Co.(I社)が,携帯電話の基地局との通信に係る自身の保有特許6,879,830(’830特許)を侵害しているとしてHTC Corporation(H社)を提訴した。提訴後, H社は’830特許の当事者系再審査をUSPTOに請求したが,USPTO特許審査部は’830特許を維持する判断を下したため,H社は新たな無効理由に基づきUSPTOに審判請求を行った。審判において I社はクレーム補正を行ったが,USPTO特許審判部(PTAB)は補正後のクレームが非自明性を有さないとして特許無効の審決を下した。
 I社は,この審決を不服として,無効とされたクレームがミーンズプラスファンクション(MPF)クレームで表現されたものであるにも関わらず,PTABはクレーム解釈において対応する 明細書に記載の構成を参酌していないことから,審決は瑕疵のあるクレーム解釈に基づくものであるとの主張に基づき,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 無効とされたクレームの“an arrangement for reactivating”はMPFの文言であることはH社,I社ともに同意していたが,PTABはクレーム解釈において,「最も広い合理的解釈」 (broadest reasonable interpretation;BRI)の考え方を適用した。CAFCは,この判断はDonaldson判決(CAFC大法廷,1994)に合致していないものであると指摘した。
 ここで,Donaldson判決においては,MPFの文言を明細書の参酌なしに解釈することは,BRIの考え方に基づいて許容されるものであるとUSPTOが主張した。しかしCAFCは,USPTOは特許法112条 パラグラフ6に記載の文言に率直に従わなくてはならない,すなわち,MPFの文言の解釈においては,明細書の記載を参酌し,明細書の開示に対応する構造,材料または作用,およびその均等物 に基づいて文言を解釈しなければならないとして,USPTOの主張を退けた。
 CAFCは,Donaldson判決におけるUSPTOのように,PTABがMPFクレームの解釈にBRIの考え方を適用しMPFクレームとしての限定を行わなかった,と指摘したうえで,PTABのMPFクレーム解釈は誤り であるとし,当該クレームを無効とするPTABの審決を破棄した。

(旭 伸隆)

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