専門委員会成果物

恒久的差止命令の要件の1つである回復可能な損害について,特許の特徴と被疑侵害品の需要の牽引との間に何らかの関連があれば認めるとの判断をした事例

CAFC判決 2017年7月10日
Genband US LLC v. Metaswitch Networks Corporation, et al.

[経緯]

 通信企業向けの製品とサービスを提供しているGenband US LLC(G社)は,自社が保有する8件の特許を侵害しているとして,Metaswitch Networks Corporation(M社)を地裁に提訴した。
 地裁での審理に於いて,陪審員はM社による特許侵害を認め,かつ特許は無効ではないという評決を下した。地裁は,この評決を受けて,特許を有効と認定し,M社による特許侵害が認められた結果, 約8.2Mドルの損害賠償金支払いをM社に命じた。その後G社は,同訴訟において,M社に対する恒久的差止命令(permanent injunction)の発令を要求した。地裁は,Apple, Inc. v. Samsung Electronics Co.(Fed.Cir.)におけるApple II, Apple III, Apple IVに関する判決の「特許権者は侵害されている特徴が顧客の購買要求を牽引しているという事実を証明する必要がある」 という文言を引用した上で,特許の特徴と被疑侵害製品の需要が牽引されたこととの因果関係の立証が不十分であるとして,恒久的差止命令の適用を否定した。
 G社はこの決定を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁判決を無効とし,CAFCの意見(下記)に基づく再検討を要求した。
CAFCは,地裁判決では,特許された特徴と被疑侵害製品の需要の牽引との間の因果関係についての立証をG社へ要求していたが,これを「因果関係の要求を厳しく解釈しすぎている」と説示した。
 CAFCは,地裁判決で引用されたAppleの判決の「需要牽引」に関する文言については,少なくとも被疑侵害製品が複数あり,複数の特徴があり,かつ複数の購入者が異なる購入の決断をする際に 異なる点を重視している場合に解釈が異なる,と説示した。
 そして,特許された特徴は被疑侵害製品の需要を牽引する排他的な要素ではなく,特許権者は,特許された特徴と被疑侵害製品の需要との間に何らかの関連が示せればよいとの意見を示した。

(上原 悠子)

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