専門委員会成果物

IPRでPTABが採用したクレーム解釈がBRI適用に誤りがあるとして否定された事例

CAFC判決 2017年7月25日
Home Semiconductor Corporation v. Samsung Electronics Co., Ltd., et al.

[経緯]

 米国特許庁審判部(PTAB)は,Samsung Electronics Co., Ltd.(S社)によって申請されたInter Partes Review (IPR)において,Home Semiconductor Corporation(H社)の 「半導体装置におけるコンタクトホールの形成方法」に関する米国特許6,146,997(’997特許)のクレーム2,9−14は,米国特許6,277,720(’720特許)に対して新規性が無いとする最終書面決定 (final written decision)を下した。H社はこの決定を不服としてCAFCに上訴した。
 IPRにおける争点は,クレーム2の文言,“forming an oxide layer over the diffusion layer”における“over”の解釈であった。S社はこれを“above”と解釈し,PTABはS社の解釈を採用して上記決定を下した。

[CAFCの判断]

 H社からの上訴を受けたCAFCは,IPRにおいてPTABが採用した“over”の解釈に誤りがあるとして,PTABの最終書面決定を覆した。
 CAFCは,S社及びPTABの“over”の解釈はクレーム文言や明細書との整合性の観点で誤りであるとした。即ち,CAFCは,S社及びPTABが,最も広い合理的解釈(BRI: Broadest Reasonable Interpretation)を, 上記クレーム文言や明細書において“over”が使用される文脈を考慮せずに,“over”という語句単体に着目して適用した点で,誤りがあると指摘した。
 また,CAFCは,S社及びPTABの“over”の解釈は,クレーム2やその従属クレーム9の文言,“forming an oxide layer over the diffusion layer and on the sidewalls of the gate electrode by thermal oxidation”とも整合しないと述べた。CAFCは,S社及びPTABの解釈によれば,“and on the sidewalls of the gate electrode”の部分が余分な限定となってしまうことをその理由とし,“forming an oxide layer over the diffusion layer”は,“on the sidewalls of the gate electrode”と整合するように解釈すべきであると述べた。
 以上をふまえて,CAFCは,PTABのクレーム解釈には不備があり,’997特許のクレーム2,9−14が’720特許に対して新規性が無いとするPTABの決定をサポートする実質的証拠(substantial evidence)は 無いと結論づけ,PTABの決定を覆した。

(吉田 晴信)

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