専門委員会成果物

地裁判決の自明性の評価に誤りがあるとして,地裁の特許無効の判断を棄却,差し戻した事例

CAFC判決 2017年7月17日
Millennium Pharmaceuticals, Inc. v. Sandoz Inc., et al.

[経緯]

 Millennium Pharmaceuticals, Inc.は,がん治療薬である凍結乾燥したボロン酸エステル化合物Aの特許6,713,466に基づき,Sandoz Inc.らを特許侵害で提訴した。地裁は,特許無効と判決した。

[CAFCの判断]

 地裁は,充填材(マンニトール)Bの存在下で化合物(ボルテゾミブ)Cを凍結乾燥することは自明の工程であり,クレーム記載の化合物Aはその工程の当然の結果であり自明であると判断したが, CAFCは次の4点を挙げ地裁の各判断は誤りであるとした。

1)自明性(obviousness)
 CAFCは,凍結乾燥は医薬化合物の生成方法として知られているが,化合物Cの凍結乾燥は先行文献に示されていない点,充填材Bは,化合物Cの充填材としては知られていない点,先行文献に 化合物Cはエステルを形成することが開示されているが,開示されたエステル形成化合物に充填材Bは含まれていない点から地裁の自明性の評価は誤りであると判断した。また,充填材Bと化合物Cとの 凍結乾燥によって安定性・溶解性を備える化合物Aが生成されることを示す文献は示されていないと判断した。
2)阻害要因(teach away)
 地裁は,充填材B存在下での凍結乾燥は,先行文献によって阻害されない適切な選択肢の一つであると認定したが,CAFCは,充填材Bとの反応は多様な化合物が生成することが予測され, 当業者はそのような反応を避けることが通常であると判断した。
3)内在性(inherency)
 充填材Bの存在下での凍結乾燥が予想外の結果をもたらすとしても,その結果は不可避,本来的なものであり,創意があるものではないという地裁の判断に対し,CAFCは,自明性は 先行文献との関係で判断されるものであり,専門家らが凍結乾燥時の反応やその結果物の特性を予期しなかった点から,地裁の判断を否定した。
4)客観的証拠(objective indicia)
 CAFCは,自明性の判断においてはグラハムテストが考慮されなければならず,クレームされた化合物Aは予想外の結果を有すること,長い間要望されたものであることを認め,化合物Aが容易に 生成可能であったという地裁の判断を否定した。

(井上 幸子)

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