専門委員会成果物

TC Heartland LLC最高裁判決での"被告が日常的かつ確立された事業拠点を持つ地区"の判断基準を明らかにして事件の移送を認めた事例

CAFC判決 2017年9月21日
In re:Cray Inc.

[経緯]

 Cray Inc.(C社)は,ワシントン州を所在地とする企業である。C社は事業拠点をテキサス州東部地区に有しなかったが,同地区に自宅を有する従業員を雇用し,ミネソタ州の事業拠点から従業員を管理し, また従業員に対して彼らの自宅からのリモートワークを認めていた。ただしC社は,従業員に対して従業員の自宅のための家賃などを支払ってはおらず,また,従業員の自宅住所を事業拠点であるとして 宣伝することもなかった。
 Raytheon Company(R社)は,C社の従業者の自宅がテキサス州東部地区に存在することを理由に,テキサス州東部地裁に特許権侵害訴訟を提起した。これを受けたC社は,TC Heartland LLC最高裁判決 (TC Heartland LLC v. Kraft Foods Group Brands LLC, 137 S. Ct. 1514, 122 U.S.P.Q.2d 1553 (2017))での「被告が日常的かつ確立された事業拠点を持つ地区(the defendant has a regular and established place of business)」という判断に基づくとテキサス州東部地裁は裁判地として不適切と主張し,ウィスコンシン州西部地裁への事件移送を申し立てた。しかしテキサス州東部地裁は, C社の従業者の活動は裁判地を決定するのに十分であると判断し,C社の申し立てを却下した。そこでC社はCAFCに,テキサス州東部地裁による事件移送却下の無効を申し立てた。

[CAFCの判断]

 CAFCは,「被告が日常的かつ確立された事業拠点を持つ地区」に基づく裁判地の決定は,裁判地における被告の事業拠点の有無が問題であり,従業員の自宅の有無は関係ないと判断した。また, C社は従業員の自宅のための家賃の一部を負担などしておらず,また,従業員の自宅にC社の商品の在庫を保管していないことなどを理由に,従業者の自宅はC社にとっての重要な事業拠点ではないと判断した。 さらに,たとえ従業員が自らの自宅で被告のために業務を行っていたとしても,それをもって裁判地とするのは不適切であると判断した。そしてこれらの判断に基づき,CAFCはC社の申立を認め, ウィスコンシン州西部地裁への事件移送を命じた。

(山名 健司)

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