専門委員会成果物

合理的な最も広い解釈(BRI)をクレーム解釈に適用する際に明細書の記載が影響を与えた事例

CAFC判決 2017年9月26日
In re:Smith International, Inc.

[経緯]

 Smith International, Inc.(S社)が保有する掘削道具に関する特許6,732,817(’817特許)に基づき,S社の親会社であるSchlumberger Holdings Corp.とSchlumberger N.V.が,Baker Hughes Inc. (B社)に対し,特許侵害訴訟を地裁に提訴した。これを受けて,B社は査定系再審査(Ex parte reexamination)を請求し,USPTOが受理した。その後,2016年に,S社が’817特許に基づき,B社に対し, 特許侵害訴訟を2012年とは異なる地裁に再度提訴した。これを受けて,B社は当事者系レビュー(Inter partes review(IPR))を請求したが,特許審判部は査定系再審査の手続きと重なることを理由に,審理を 開始しない,と決定した。その後,前記査定系再審査における審理に於いて,一部の新クレームを容認する旨の査定が下りたものの,それを不服として,S社は査定不服審判を請求した。この審判に於いて, 特許審判部は前記査定を維持する旨の審決であったため,この審決を不服としてS社がCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは特許審判部の決定を棄却し,特許は有効であると結論付けた。
 査定系再審査と控訴審で最大の争点となったのは,請求項の構成要素である“body”という文言のクレーム解釈であった。
 前記査定系再審査において,審査官の“body”に対するクレーム解釈は,“mandrel”や“cam sleeve”を包含する広いものであった。その理由としては,“body”はクレーム内で限定が無く 明細書でも意味を定義していない事,審査官の広い解釈を妨げる記載が明細書に存在しない事であった。上記のクレーム解釈の下,審査官は“Eddison”を含むいくつかの先行文献に基づき ,請求項に新規性又は非自明性が無いと結論付け,特許審判部もこれを支持した。
 しかし,CAFCは,審査官と特許審判部の“body”の解釈が不当に広いと結論付けた。請求項に合理的な最も広い解釈:Broadest Reasonable Interpretation (BRI)を与えるとき,明細書の記載と 切り離して不当に広く構文解釈する事は出来ず,発明者が明細書内で発明について何をどのように記述しているかに対応する解釈である必要があると述べた。
 ここで,明細書では“body”を“moveable arms”,“mandrel”,“piston”,“drive ring”等とは一貫して区別して記述しており,これらの記述の観点から,“body”が“Eddison”内の “mandrel”や“cam sleeve”を含むように解釈されるのは合理的ではないと結論付けた。さらに,CAFCは審査官の解釈を妨げる特定の記載が明細書内に存在しない点について,特許審判部の主張に 基づくと,明細書内に定義や否認の表現が無ければ明細書の記載に関係なくBroadest “Possible” Interpretationの適用をもたらす事になり,明細書に基づきクレーム用語に対して適切にBRIを与えていないと述べた。
 特許審判部の分析は,“body”の不当に広い解釈に基づいたものであるので,特許審判部の新規性・自明性の認定は支持されないと結論付け,CAFCは特許審判部の決定を棄却した。

(陶山 研悟)

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