専門委員会成果物

均等論に対する先行技術の抗弁が認められた事例

CAFC判決 2017年9月29日
G. David Jang, M.D. v. Boston Scientific Corp., et al.

[経緯]

 G. David Jang(J氏)は冠動脈ステントに関する特許5,922,021(’021特許)を有している。J氏はBoston Scientific Corp.(B社)が販売しているステントが’021特許の権利範囲に含まれる として提訴した。
 地裁の陪審員はB社のステントは’021特許に対して文言侵害には該当しないものの,均等論を適用し均等侵害に該当すると認定した。B社はこの評決に対して,認定された均等論による権利範囲は 先行技術の範囲に入るため’021特許の権利範囲外であるとする抗弁を主張した。
 一方,J氏はB社の先行技術の抗弁に対して,仮想クレームを提出した。しかし,J氏の仮想クレームは元のクレーム1より権利範囲が狭いため,不適切であるとして地裁は却下した。したがって, 均等侵害とした評決を破棄し非侵害とした。これを受けてJ氏は4度目の控訴をした。

[CAFCの判断]

 CAFCは以下の点を判示し,非侵害とする地裁の判断を支持した。
 均等侵害において,DePuy判決で示されたように,均等論を適用した権利範囲が先行技術を含んでいる場合は権利範囲から除外され,それは陪審員が均等侵害と認定した場合も例外ではない。
 上記判断は,仮想クレームを用いた2ステップの分析により行われる。第1ステップとして被疑侵害品を含む権利範囲の仮想クレームを作成する。第2ステップとして,被疑侵害者から提出された 先行技術に対して特許性を有する記載にできるかを検討する。もし,仮想クレームが特許性を有すれば,先行技術の抗弁は適用されない。なお,仮想クレームにおいては元のクレームよりも狭くなる 限定を加えてはならない。J氏の仮想クレームは,クレーム1の一部の限定を削除しているが,新たな限定を加えており,権利範囲が狭くなっていると判断された。
 仮想クレームに対して先行技術を提出する責任は被疑侵害者側にあるが,仮想クレームが特許性を有することの立証責任は特許権者側にある。
 なお,均等論を適用した権利範囲が先行技術に含まれるか否かを判断する上で仮想クレームに基づく分析は唯一の方法ではないが,J氏は他の方法を地裁に提案しなかった。

(高見 亮次)

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