専門委員会成果物

記載要件に関する証拠は,優先日後の証拠であっても採用されると判断された事例

CAFC判決 2017年10月5日
Amgen Inc., et al. v. Sanofi, et al.

[経緯]

 Amgen Inc.(A社)は,PCSK9抗体に関する特許の特許権者である。Sanofi(S社)らは,PCSK9抗体(Praluent®)を製造販売している。A社は特許権を侵害しているとしてS社らを地裁に提訴した。 地裁はA社の特許は有効であると判決し,Praluent®の終局的差止命令が発行された。これを不服としてS社らはCAFCに上訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁が(ⅰ)記載要件に関する優先日後の証拠を誤って除外したこと,(ⅱ)明細書記載に関して陪審に誤って説示したこと,に基づき地裁判決を破棄し,差戻し再審理の判決を下した。 これに伴い終局的差止命令も無効となった。
 (ⅰ)について,S社らは,クレームをサポートする十分な数の実施例が明細書に記載されていないという証拠を提出した。つまり,特許法112条の記載要件を満たしていないことの証拠であった。地裁は, 本証拠の日付は優先日後であるため,採用を拒否した。しかしCAFCは,出願後の技術水準の変化を示す証拠であれば採用できないが,記載要件を満たすか満たさないかの事実を示す証拠であれば,優先日後で あっても採用できると判断した。
 (ⅱ)について,地裁は陪審員に,抗体のクレームの場合には,構造と機能の相関は,構造,分子式,化学名,又は物性により,新たに特徴付けられた抗原を開示することでも満たされることを説示した。 一方,S社らは,抗原の開示では,抗体のクレームの記載要件を満たしていない為,地裁の説示は誤りであると主張した。CAFCは,地裁の説示は,適切でないと結論付けた。

(内田 秀春)

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