専門委員会成果物

機能的材料の表現がその機能を発現する条件下で用いられることまで限定するとクレームが解釈された事例

CAFC判決 2017年10月11日
Organik Kimya AS v. Rohm and Haas Co.

[経緯]

 Organik Kimya AS(O社)は,Rohm and Haas Co.(R社)の特許6,020,435(’435特許)について,IPRを請求した。’435特許は,空孔を有する乳化重合体の製造方法に関する。具体的には, 塩基である膨潤剤とモノマーを,特定の条件下でコア-シェル重合体のエマルションに加えることで,塩基がシェルに浸透し,酸性のコアが中和され,重合体粒子が膨潤することを特徴とする。
 IPRにおいて,PTABは,「膨潤剤」を単に重合体粒子を膨潤させる材料としてだけでなく,特定の条件下で膨潤剤として使用できる材料に限定して解釈し,’435特許の新規性,非自明性を認め,特許維持を決定した。
O社は,この決定を不服として,PTABのクレーム解釈に誤りがあることを根拠に,CAFCに上訴した。

[CAFCの判断]

 先行文献は,空孔を有する乳化重合体の製造方法を開示し,一部実施例において’435特許で膨潤剤として包含される水酸化カリウムが用いられるが,膨潤剤としての使用でなく,空孔を形成する メカニズムも’435特許と異なる。
 O社は,’435特許のクレームについて,単に膨潤剤を加えることを限定するに過ぎず,膨潤する工程まで限定するものではない点,また,膨潤剤としては塩基を用いることしか要求されておらず, 反応条件が膨潤に適するかどうかまで表現していない点を指摘し,PTABのクレーム解釈は「膨潤剤」を不適切に限定していると主張した。
 CAFCは,’435特許の明細書において,膨潤剤について,シェルに浸透しコアを中和することで膨潤機能を発現する塩基と表現されており,かつ,該化学的ステップに影響する要素として,モノマー濃度,塩基濃度, 温度が記載されることに基づき,PTABのクレーム解釈に誤りはないと判断した。また,CAFCは,R社側の専門家が,先行文献の条件で水酸化カリウムを使用した際に,膨潤剤の機能が発現されないことを実験で 立証した一方,O社側からはR社主張に対する反証が一切提出されなかった点を指摘した。
 結果,CAFCは,’435特許のクレームの特許性が先行文献により否定されないとするPTABの決定を支持した。

(廣本 敦之)

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