専門委員会成果物
銀行カードを用いて乗客に大量輸送機関を利用させるシステムに関する特許が特許適格性を欠くと判断した事例
CAFC判決 2017年10月18日Smart Systems Innovations, LLC, v. Chicago Transit Authority, et al.
［経緯］
Smart Systems Innovations, LLC（Ｓ社）は，既存の銀行カード（クレジットカード等）を用いて乗客に大量輸送機関を利用させるシステムに係る特許権（特許7,566,003等）の侵害を理由に， シカゴ運輸局他（シカゴ運輸局）を地裁に提訴した。シカゴ運輸局は，当該特許のクレーム（本クレーム）が，特許法101条の特許適格性を欠く旨の主張をし，地裁はこの主張を認容する判決を下した。 Ｓ社はこの判決を不服とし，CAFCに控訴した。［CAFCの判断］
CAFCは，Alice最高裁判決（Alice Corp. Pty Ltd. v. CLS Bank International, 134 S. Ct. 2347（2014））に基づき，以下の点１・２を判示し，地裁の判決を支持し，本クレームが特許適格性を欠くとした。- Alice最高裁判決ステップ１の判断：
本クレームは抽象的アイデアを規定する。論点は下記�，�ら�い任△襦�- �）椒�レームは，大量輸送分野での金融取引の形成と，その取引に係るデータ収集と，を含んだ発明を規定する。しかしながら，本クレームは，新たなタイプの銀行カード， 改札，データベースを規定するものではなく，既存の技術的プロセスを改善するデータ処理の方法を提供するものでもない。
- �∨椒�レームは，コンピュータ技術の改善に係るものでなく，また，技術的なプロセスを改善する特定の規則に係るものでもない。
- �Ｃ蠑歸�アイデアが利用される分野が特定環境に単に制限されていることは，クレームが抽象的であることを緩和しない。
- �ぃ喙劼蓮に榿�明がより高速なソリューションを提供するから，本クレームが抽象的アイデアを規定するものではない旨を主張した。しかし，抽象的アイデアの応用はAliceステップ１でなくAlice ステップ２に係るものだから，その主張は失当である。
- Alice最高裁判決ステップ２の判断：
本クレームは，プロセッサーの利用，インターフェース，メモリ，およびハッシュ識別子を有するデータを規定する。しかしながら，本クレームは，抽象的アイデアを規定し，そのうえで 汎用コンピュータの実行を要求するにすぎない。つまり，本クレームはインベンティブコンセプト（追加的特徴）を規定しない。この場合，抽象的アイデアを規定するとされたクレームが，特許適格性を 有するとされることはない。
他，CAFCは，上記１・２以外にも，先取りの論点に関し，CAFCは，Ariosa Diagnostics Inc.判決（Ariosa Diagnostics Inc. v. Sequenom Inc. No. 14-1139 （Fed. Cir. 2015））を引用し， 特許適格性を欠くとき，先取りの問題は十分に持ち込まれ，訴訟性を喪失すると判示した。また，機械・変換テストに関し，CAFCは，Ultramercial Inc.判決（Ultramercial Inc. v. Hulu LLC. 772 F.3d 709, 716 （Fed. Cir. 2014））を引用し，機械・変換テストが特許法101条の分析を単独で支配しないとし，本クレームは汎用コンピュータ要素および機械類の利用を規定するが，これは本クレームが インベンティブコンセプトを有すると認定するのには十分でないと判示した。
（山口 薫）
