専門委員会成果物

ありふれた実験により発見可能な製法は自明であると判断した事例

CAFC判決 2017年10月26日
Merck Sharp & Dohme Corp. v. Hospira, Inc.

[経緯]

 Merck Sharp & Dohme Corp.(M社)は抗菌薬エルタペネム二酸化炭素付加物の凍結乾燥製剤の製造方法に関する特許6,486,150(’150特許)を保有しており,Hospira, Inc.(H社)が エルタペネム二酸化炭素付加物の凍結乾燥製剤についてジェネリック販売承認を求めて医薬品簡略承認申請(ANDA)を申請したため,M社は特許権侵害を理由としてH社を地裁に提訴した。
 地裁は’150特許が先行技術に照らして自明であり,特許は無効であると判決した。
 エルタペネムは二量化及び加水分解が起こる不安定な薬物であるが,二酸化炭素付加物とすることで安定化することが知られており,その凍結乾燥製剤についても知られていた。’150特許でクレームされた製法の詳細な製造条件は先行技術には開示されていなかったが,最終生成物が公知であったことから,地裁は,その製造条件は当業者が公知技術から容易に見出すことができる一般的な製造条件にすぎず,当該製法は自明であると判断した。さらに地裁は,M社が示した商業上の成功や侵害者による模倣といった客観的証拠(objective indicia)は,上記の強い自明性の証拠を覆すほどのものではないと結論を下した。
 M社はこの判決を不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁の上記結論に誤りはなかったとして,地裁判決を支持した。
 CAFCは,製造工程の順序,塩基追加のタイミング,温度範囲,製剤の水分含有量については公知ではなかったと認めたものの,そのような詳細な製造条件は,当業者がありふれた実験を通じて採択し うるものであると判断した。
 さらにCAFCは,M社が’150特許以外にも製品を保護する特許を複数保有している場合であっても,商業的成功の証拠能力が損なわれるわけではないとしつつも,’150特許の製法が先行技術に 実質的に開示されていたという証拠を覆すには足りないと結論付けた。

(越後 友希)

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