専門委員会成果物

識者の証言や客観的証拠を考慮しても,多数の先行文献より特許クレームは当業者に自明であるとして,地裁判決を棄却した事例

CAFC判決 2017年11月1日
Bayer Pharma AG, et al. v. Watson Laboratories, Inc., et al.

[経緯]

 Bayer Pharma AG(B社)は,ED治療薬の有効成分vardenafil hydrochloride trihydrateの口腔内崩壊錠剤(ODT)に関する特許8,613,950(’950特許)を所有しており,vardenafilの服用薬Levitraと ODTであるStaxynを販売している。
Watson Laboratories, Inc.(W社)は,Staxynのジェネリック品の販売承認申請を,米国食品医薬品局(FDA)に行った。これを受けて,B社は’950特許の侵害を主張してW社を地裁に提訴した。W社は, 1)vardenafilのODT処方の創出,2)賦形剤である糖アルコールにmannitolとsorbitolを選択,3)ODT処方を即放(口中で放出)型とすることについて,複数の先行文献を証拠として,当業者にクレームのODT 処方とする動機があり’950特許は自明であると反論した。地裁は,非自明である旨のB社側識者の証言を勘案して,W社の反論を拒絶し,’950特許は自明でないと判示した。
W社はこの判決を不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁が事実認定を誤ったとして,地裁の判決を棄却した。
 上記1)に関して,W社は9つの先行文献を示したが,このうち6つは地裁の判決に考慮されていなかった。先行文献は,多くの企業がED治療薬のODT処方を検討していたことを示しており,W社は, 当業者がODT処方をvardenafilに応用する動機があることを立証していた。地裁が認定したB社側識者の証言「’950特許の優先日当時,ED治療薬のODTは市場になかった。」についても,組み合わせの 動機づけは優先日当時の商業的な入手性に限定されるものではないとした。
 続いて,上記2)に関して,W社は7つの先行文献を提示し,当業者に賦形剤としてmannitolとsorbitolを使用する明らかな動機があることを立証していた。
 最後に,上記3)に関して,ODTは,即放型と放出遅延(胃の中で放出)型のみであり,地裁は,vardenafilの苦味と,年配者への生体利用効率の高さの危惧が,即放型処方化に対し阻害要因となると 認定した。しかしCAFCは,2通りの処方のみ知られている状況で,一方を好む理由があったとしても,それは他方への阻害要因とはならず,なお可能な選択肢であるとした。
 は,W社の当該発明の模倣,StaxynがLevitraより作用の持続時間が長いという予期せぬ結果を,非自明性の客観的証拠に認定したが,CAFCは,これらを考慮して比較検討しても当業者にとって クレームの組み合わせは自明であると認定し,地裁の判決を棄却した。

(渡辺 喜彦)

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