専門委員会成果物

ライセンシーの特許表示義務違反により損害賠償裁判が差し戻された事例

CAFC判決 2017年12月7日
Arctic Cat Inc. v. Bombardier Recreational Products Inc., BRP U.S. Inc.

[経緯]

 Bombardier Recreational Products Inc.およびBRP U.S. Inc.(B社)は,Arctic Cat Inc.(A社)が有する個人用水上オートバイク(PWC)向けの推力旋回システムに関する侵害訴訟に関連し, 同社による法律審の申し立てを却下した地裁判断を不服としてCAFCに控訴した。CAFCは対象特許の自明性,三倍賠償および継続特許料の支払いについては地裁判決を認めたが,A社の特許表示義務に関しては 地裁判決を破棄し,差し戻しを命じた。

[CAFCの判断]

 B社は,訴訟対象のA社特許は,既存技術の組み合わせであり当業者には想到容易であるとして自明を主張した。CAFCは,B社が自明の根拠として提出した文献は,既存技術の組み合わせが困難で あることが記載されているとしてB社の主張を退け,陪審の評決を支持した。
 次にA社のライセンシー(H社。A社とは特許表示の義務を負わないとする契約を締結)が特許表示を行わなかったことが,被告が負うA社の損害に影響するか否かが争われた。地裁は略式裁判において, 特許表示義務を遵守していたかの立証義務は,被告にあるとしたが,CAFCは,地裁判決は法的に誤りであって,特許表示義務の遵守証明義務は常に特許権者にあるとしてこれを破棄し,A社にH社製品が クレーム範疇外であったことを立証する義務があるとした。
 故意侵害については,被告が“特許侵害を知っているべきであったこと”の立証義務を原告A社に課した本件の陪審説示がHalo基準に矛盾するかが争点となった。CAFCは,Halo判決は主観的故意のみで 故意侵害の立証が可能なことを示したもので,客観的故意に基づいた証拠による判断基準を排除するものではないとして本件の陪審説示を認め,B社の異議を退けた。さらに三倍賠償の判断について, 双方からの摘要書を受理することなく三倍賠償を決定した地裁手続きを裁量の濫用にあたるとの主張に対しては,摘要書がどのように結論に影響するかを被告は何ら主張していないとして地裁の決定を支持した。

(田中 泰明)

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