専門委員会成果物

EUにおける貿易と投資の促進を期待される欧州単一特許,新たな研究結果

 2017年11月14日,欧州特許庁(EPO)は欧州単一特許がより多くの貿易と外国直接投資(FDI)を通じて欧州連合(EU)における技術移転を大幅に増加させる可能性があるとする研究結果を発表した。 欧州特許制度の制度調和の改善によって,EUのハイテク分野における貿易とFDIはそれぞれ2%と15%増加する可能性があり,年間146億ユーロの貿易利益と18億ユーロのFDIがもたらされるとしている。

 この研究は,知的財産権を高度に活用するICT,化学,医療機器などのハイテク製造業に焦点を当てている。他の産業と比較して,これらの“high-IP”分野は,EUの輸入やEU諸国間貿易,EU域内のFDIフロー よりも輸出やEU域外へのFDIフローに寄与する主要分野であることが明らかとなったが,これはEPOと欧州連合知的財産庁(EUIPO)の過去の調査結果と一致するものである。一方で本研究は,EU諸国間の貿易と FDIフローに対するこれらの産業の寄与は依然として限定的であり,技術のEU単一市場を達成するための潜在能力を秘めていることを示唆している。

 本研究はさらに,ハイテク製造業における貿易とFDIのフローが,国の特許保護レベルに特に影響を受けやすいことを見出している。特許保護の強化は,high-IP分野におけるhigh-IPの輸入とFDIの 価値と数量において大きなプラスの影響を与える。この背景を踏まえ,本研究はEU内のハイテク産業の貿易や投資を阻害する,特許発明の流通に対する制限が存在することを明らかにしている。

 特許発明の流通の制限は,EPOによる特許付与後に各国移行において権利と手続が分断される欧州特許制度にある。保護が必要な各国に支払う有効化と維持管理の費用を節約するために,ほとんどの 企業は現在,少数のEU加盟国でのみ欧州特許を登録している。加えて,特許は国毎に保護レベルが不均一で,並行訴訟のリスクがあり,国によって異なる結果になる可能性がある。欧州単一特許は これらの欠点に対処し,EU内の貿易やFDIを通じて技術移転を促進すると期待されている。また欧州単一特許の年金は非常に魅力的でありビジネスフレンドリーである。欧州単一特許は,現在の状況と 比較して,全体のコストを70%削減し,特に中小企業,大学,研究機関向けのイノベーションと技術の欧州市場へのアクセスを促進するだろう。

EPOニュース(2017年11月14日)

http://www.epo.org/news-issues/news/2017/20171114.html
(参考)EPO発行物(2017年11月)

http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/AD3C8DB869617089C12581D70055FF25/$File/patents_trade_fdi_en.pdf

http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/AD3C8DB869617089C12581D70055FF25/$File/patents_trade_fdi__key_findings_en.pdf
(参照日は全て2017年11月23日)

(竹内 均)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.