外国特許ニュース

南アジア編～US Special 301条　監視国の状況

　2021年４月30日，米国通商代表部（USTR）から，US Special301条の最新レポートが発行されました^１）。
　このSpecial 301条レポートは，アメリカ合衆国が，知的財産権の保護状況や公平な市場アクセス状況などを調査し，警戒レベルを「優先国」，「優先監視国」，「監視国」の３段階に分けて，その状況を報告するもので，各国における知財保護状況などを読み取ることができます。
　今回は，「南アジア編」と題し，2021年度版　Special 301条において取り上げられた，「インド」，「パキスタン」について，2020年度版からの変化を中心に，知財視点から，概要を纏めました。

【総括】
　インド，パキスタンともに，条約への加入など，国際調和にむけた取り組みが評価されました。しかし，エンフォースメントを中心に，さらなる改善の余地があるとして，両国の警戒レベルは，インド，パキスタンの順に，「優先監視国」，「監視国」が，それぞれ維持されております。一方で，両国ともに，さらなる知的財産の保護強化にむけた取り組みが進められており，今後の動向が注目されます。

インド
インドでは，この１年間，WIPOのインターネット条約，およびニース協定の加盟・Form 27の改定版の発行など有意義な進歩がありました。しかし，企業秘密に関する保護や，組織的なエンフォースメント体制が不十分だとされ，「優先監視国」が維持されています。
【米国からの主な指摘事項】
1. ① 医薬品関連発明の取り扱い
  インド特許法第３条（d）における「効能の増大（enlargement of known efficacy）」の扱いや，医薬品製造許可に関する情報の透明性について，懸念が残ったままです。
2. ② 模倣品・著作権違反（海賊版）について
  裁判所-警察，国家-州レベルの連携によるエンフォースメント体制の脆弱性や，商標権の取得に関する一連のスピード／審査の質について，引き続き，懸念が指摘されています。
3. ③ 国際制度との調和
  商標手続きの国際的な制度調和と簡素化を目的とした，商標法に関するシンガポール条約への参加を，引き続き呼び掛けています。
4. ④ 企業秘密の保護
  インドでは，企業秘密を保護するための法的手段が不十分な点につき，包括的に対応できるような立法措置が望まれています。
5. ⑤ Form27の改定
  2020年10月に実施されたForm27の改定につき，特許権者負担軽減を歓迎しつつ，これにより開示された秘密情報の取扱いへの懸念が示されています。
パキスタン
　パキスタンでは，この１年間，マドリッド協定議定書に加盟したこと，地理的表示に関する法律および規則（GI）の施行といった有意義な進歩がありました。また昨年度に引き続き，知的財産の保護とエンフォースメント強化を促進している点，および知的財産の保護とエンフォースメント強化にむけた教育プログラムを実施している点などが評価されました。しかし，依然として知的財産のエンフォースメントについての懸念が残っているため，「監視国」が維持されています。
【米国からの主な指摘事項】
1. ①模倣品・著作権違反（海賊版）について
  　医薬品・印刷部・デジタルコンテンツ・ソフトウェア分野などでも模倣品・海賊版の販売は依然として広がっています。
2. ②エンフォースメント体制のさらなる強化
  　パキスタンの知的財産法廷での裁判官の専門知識の不足について，引き続き，懸念が指摘されています。また，主要都市（ラホール，イスラマバード，カラチ）以外の都市における新たな知的財産裁判所の設立予定が進展していないこと，さらに，前年度同様に，権利所有者の請求がない場合に，当局に刑事措置がとれる職権がないため，商標のエンフォースメントが困難なことも問題視されています。
  　国際第４委員会では，引き続き中東，ASEANについてのSpecial 301条関連ニュースをお届けする予定です。今後ともよろしくお願い致します。

監視ランク	優先監視国	監視国
国	インド	パキスタン
国
前年度との比較	優先監視国維持	監視国維持
評価する点	ニース協定への加盟／WIPOインターネット条約への加盟 2020年10月　Form27　改定版の発行による特許実施報告義務の軽減インドの製造業者による，COVID-19ワクチン生産の為の国際パートナーとの自主的なライセンス契約締結	知的財産の保護とエンフォースメントを促進するための教育プログラムの実施国際条約加盟に向けた前向きな検討（WIPOインターネット条約，マドリッドプロトコル，PCT条約など） 2021年初頭にマドリッド協定議定書に加盟した 2020年に地理的表示に関する法律および規則（GI）を施行した
主な懸念点（改善余地あり）	不特許事由に関する特許法第３条（d）の「効能の増大」に関する解釈・模倣品・海賊版を促進するいくつかの市場の存在 Form27で開示された機密性の高い情報の当局による取扱いインドの企業秘密保護の具体的取組み（立法・制度）の欠如	知財訴訟を扱う裁判体制のさらなる強化が必要。主要都市（ラホール，イスラマバード，カラチ）以外の都市での新たな知的財産裁判所の設立予定は進展していない刑事措置を目的とした商標権侵害への救済手続き
主な奨励点	国際制度とのさらなる調和（商標法に関するシンガポール条約への加盟等）模倣品・海賊版取締りのさらなる強化 IP犯罪に対する国家レベルの執行タスクフォースの採用	透明性あるプロセスを通じた知財法の改正推進（パブコメを通じた利害関係者の意見確認など）
2020年からの変化	WIPOインターネット条約への加盟 Form27　改定版の発行企業秘密保護の必要性と具体的取組みの欠如への言及 COVID-19ワクチン生産の為のライセンス契約に言及	2021年初頭にマドリッド協定議定書に加盟した 2020年に地理的表示に関する法律および規則（GI）を施行した

注　記
1） https://ustr.gov/sites/default/files/files/reports/2021/2021%20Special%20301%20Report%20（final）.pdf

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