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〈台湾〉専利審査基準の改訂

台湾特許庁は,2021年7月14日,専利審査基準を改訂した。改訂の内容は同日に施行されている。主要な改訂のポイントを紹介する。
  1. 発明の主題の明確化
     第二篇 特許の実体審査 第一章 明細書,特許請求の範囲,要約書及び図面 1.2.1 発明の名称
     独立項は発明の対象の名称を明記すべきであり,「物品」「装置」又は「方法」のような用語しか記載されていないとき,発明の対象の名称が明記されていないものに該当すると規定された。
     例えば,「Aを加熱することによりBを得る工程を含むことを特徴とする方法」という記載は不明確であり,「Aを加熱することによりBを得る工程を含むことを特徴とするBの製造方法」と記載すべきである。
     審査において,発明の対象の名称が広範すぎる場合は,明確性欠如の拒絶理由が通知される場合があり,今回の改訂は,このような従来の審査運用を審査基準に明文規定したものと考えられる。
  2. 除くクレーム(disclaimer)
     第二篇 特許の実体審査 第六章 補正 4.2.2 許される削除(7)請求項から先行技術と重複する部分を「排除(disclaimer)」する場合
     引用文献との重複部分を除外する「除くクレーム」とする補正は,新規性違反,拡大先願又は先願主義違反(同日出願を除く)の拒絶理由に対してのみ認められ,進歩性違反を解消するための補正は認められないことが明記された。
     台湾審査実務において,「除くクレーム」とする補正にあたっては,今後は従来と異なる点に留意する必要があると考えられる。
  3. 数値限定の補正
     第二篇 特許の実体審査 第六章 補正 4.2.3 許される変更(2)請求項の数値限定を変更する場合
     補正前の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,明細書等)に数値範囲が記載されていない場合は,実施例等に記載の複数の数値を組み合わせた新たな数値範囲を,請求項に追記する補正はできないことが明記された。
     4.2.3の(2)請求項の数値限定を変更する場合,として,以下の条件(1)及び(2)を満たせば,新規事項の追加に該当せず,補正が認められる。
    (1)端点値:補正後の数値範囲の端点値(上限値及び下限値)が,出願時の明細書等に開示されている。
    (2)数値範囲:補正後の数値範囲が,出願時の明細書等に開示されている数値範囲に含まれる。
     例えば,事例11の数値限定の変更−請求項の補正には,明細書に「粘度範囲は3,500cP〜10,000cP」と記載され,実施例には「12,000cP」と記載されている場合,請求項を「粘度範囲は3,500cP〜12,000cP」とする補正は認められない。「10,000cP〜12,000cP」は,数値範囲としては,出願時の明細書等に記載が無いので,補正後の数値範囲が出願時の明細書等に開示された数値範囲に含まれず,条件(2)を満たさないため,新規事項追加となる。
     今後は,出願時の明細書において,広い数値範囲や複数の異なる数値範囲を記載することが好ましい。特に,実施例における上下限値を,範囲として明確に記載しておく等が考えられる。
  4. 無効審判の審決取消後に特許庁へ差し戻された際の審理方法
     第五篇 無効審判審理 第一章 専利権の無効審判請求 8 原処分取消後の再審理
     従来の規定では,無効審判の行政訴訟(取消訴訟)において,裁判所が,訴訟段階において無効審判請求人が提出した新たな証拠を採用して原審決を取消し,特許庁に差し戻す判決を下した場合,特許庁は,差戻審において審判請求人及び特許権者へ書面提出の通知をしなければならないとされており,特許権者はこの通知を受けた後に訂正を行うこともできた。
     改訂後の審査基準では,「行政訴訟段階で追加された新たな証拠について,当事者双方による攻防が行政訴訟の審理において十分に行われていることから,特許庁は差戻審において,意見陳述の機会を与える通知を行う必要はない」と規定された。この規定によれば,差戻審において原則として特許権者に答弁の機会は与えられない。
     この改訂を受け,特許権者は,特許庁からの通知を待たず,自発的に答弁書の提出や訂正,面談申請を行って,特許庁が直ちに特許権取消しの審決を下すことを避けるような対応をする等も考えられる。
     一方で,無効審判請求人は,定期的に包袋閲覧申請や審理状況の問い合わせを行い,特許権者が訂正や答弁書の提出を行ったことが判明した場合は,直ちに補充理由書を提出する対応をする等も考えられる。

(参考)

台湾特許庁
https://www.tipo.gov.tw/tw/cp-85-894060-9c1aa-1.html

維新国際専利法律事務所
http://www.wisdomlaw.com.tw/m/404-1596-105001.php?Lang=zh-cn

三枝国際特許事務所
https://www.saegusa-pat.co.jp/topics/10920/

台湾国際専利法律事務所
https://www.tiplo.com.tw/jp/news.aspx?mnuid=1338

(参照日:2022年1月13日)

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