専門委員会成果物

“a plurality of”が続いて列挙された構成要素のそれぞれに適用され,クレームは列挙された構成要素全てを複数要すると解釈された事例

CAFC判決 2021年1月5日
SIMO Holdings Inc. v. Hong Kong uCloudlink Network Technology Limited, et al.

[経緯]

 SIMO Holdings Inc.(S社)は,セルラーネットワークのローミング料金を削減できるようにする装置に関する特許9,736,689(’689特許)を保有している。S社は,Hong Kong uCloudlink Network Technology Limitedら(H社)の製品が’689特許のクレーム8を侵害しているとしてH社を提訴した。
 地裁は,H社の製品は「非市内通話データベース(non-local calls database)」以外の’689特許のクレーム8の要件を全て満たすが,プリアンブルの記載“A wireless communication client or extension unit comprising a plurality of memory, processors, programs, ・・・ and non-local calls database, at least one of the plurality of programs stored in the memory comprises instructions executable by at least one of the plurality of processors for:”が,非市内通話データベースを必ずしも含まないとし,「非市内通話データベース」が含まれていないH社の製品は,’689特許のクレーム8を侵害しているとの略式判決を下した。
 H社は,この判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは地裁の判決を覆し,H社の製品は,’689特許のクレーム8を侵害していないと判断した。
 CAFCは,問題の用語(非市内通話データベース)が“comprising”という単語の後に続いており,“comprising”は,一般的にプリアンブルの終わりを示す移行語の一つであり,これに続くものがクレームの本体(body)を構成することから,当該用語がクレーム8の本体の一部であることを示唆しており,当該用語は,クレーム8を限定するとした。
 その上で,地裁が“a plurality of”について,列挙された構成要素のリスト全体から選択された「少なくとも2つの」構成要素(メモリ,プロセッサなど)と解釈したのに対し,CAFCは,次のように判示した。
 クレーム8は,“non-local calls database,”の後に,“at least one of the plurality of programs ・・・ by at least one of the plurality of processors for:・・・”を続けており,2つの“the plurality”は,先行する“a plurality of programs”と“a plurality of processors”があることを要求している。すなわち“the plurality of”によって,その前にある“a plurality of”が後に列挙されている要素に個別に適用されることが明らかである。したがって,クレーム8の“a plurality of”は,これに続いて列挙された要素それぞれを少なくとも2つ(複数)必要とすることを意味するので,クレーム8には複数の「非市内通話データベース」が必要である。
 さらに,CAFCは,クレーム8は,非市内通話データベースを欠く明細書の実施形態をカバーしていないことが明らかであるとしたうえで,’689特許の明細書はいかなる特定の実施形態も好ましいものとしては示しておらず,「非市内通話データベース」がオプションであると単に述べているだけであり,これは,データベースのない実施形態が好ましいことを意味するものではないため,クレーム8の解釈は明細書の記載と矛盾しないとした。

(六笠 美生)

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