専門委員会成果物

審査段階および再審査段階において矛盾したクレーム文言の定義を主張したことにより,クレームが不明確で無効であると判断した事例

CAFC判決 2021年2月10日
Infinity Computer Products, Inc. v. Oki Data Americas, Inc.

[経緯]

 Infinity Computer Products, Inc.(I社)は,Oki Data Americas, Inc.(O社)による,米国特許6,894,811(’811特許)を含む4件の特許侵害を地裁に提訴した。
 ’811特許のクレームには,ファックス機とコンピュータとの間の“passive link”という文言が含まれていた。“passive link”は,審査段階において,引例であるPerkins特許と区別するためにクレームに導入されたものであり,’811特許の明細書には記載がないものである。
 I社は審査段階において,Perkins特許と区別するために,“passive link”は回路を介在させることなくファックス機をコンピュータ内部のI/Oバスに直接接続する,と主張した。
 一方で,I社は再審査段階において,他の引例であるKenmochi特許と区別するために,“passive link”は,単にコンピュータのポートとファックス機を接続するケーブルである,と主張した。つまり,I社は,“passive link”のエンドポイントについて,審査段階においてはコンピュータ内部のI/Oバスであると主張し,再審査段階においてはコンピュータのポートであると主張した。
 O社は地裁に対し,I社が,“passive link”のエンドポイントについて,Perkins特許と区別するために示した立場と,Kenmochi特許と区別するために示した立場とが矛盾していることを理由として,“passive link”がどこで終わり,コンピュータがどこから始まるかについて不確実性を生み出したため,クレームが不明確であると主張した。
 地裁は,O社の主張を認め,“passive link”とコンピュータとは不明確でありクレームが無効であるとの判決を下した。
 I社はこれを不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,クレームが不明確であるため無効であるとの地裁判決を支持した。その理由は,不明確性は審査経過での一貫性のない陳述によって生じることがあるためである。具体的には,I社は審査段階と再審査段階とにおいて異なる方法で用語を定義しており,“passive link”のエンドポイントについて矛盾する立場を取っている。したがって,合理的な確実性をもって当業者はクレームの範囲を定めることができないと判断された。

(妹尾 千明)

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