専門委員会成果物

クレーム中のミーンズプラスファンクションタームに対し,その機能を実行するのに必要な構成要件を欠くため不明確であるとされた事例

CAFC判決 2021年3月2日
Rain Computing, Inc. v. Samsung Electronics America, Inc., et al.

[経緯]

 Rain Computing, Inc.(R社)は,特許9,805,349(’349特許)を所有し,Samsung Electronics America, Inc.(S社)に対し特許侵害を起訴した。
 ’349特許は,ユーザーの要求に基づいて,ネットワーク内のクライアント端末にソフトウェアアプリケーションパッケージを配信する方法をクレームしている。
 地裁は,クレーム1の「user identification module」はミーンズプラスファンクションタームであり,不明確ではないと判断した。そして地裁は,クレームは侵害されておらず,不明確による特許無効でもないと判決した。
 R社,S社ともに上訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,まず「user identification module」がミーンズプラスファンクションタームであるかを判断した。ここには「means」という単語は含まれていない。しかし,「module」についてはいかなる構造も示されておらず,R社はクレームの「control access」に構成される機能を実行するいかなる構造を示す単語も指摘しなかった。「user identification」は単にmoduleの機能を示すに過ぎない。また,明細書にも「module」についていかなる構造的な重要性も言及していない。以上よりCAFCは,「user identification module」がミーンズプラスファンクションタームであると判断した。
 次にCAFCは,「user identification module」の解釈を,機能の特定とその機能を実行する構造の特定を行った。
 まず,「user identification module」の機能は,地裁による判断と同じ「ユーザーが申し込んだ1つ以上のソフトウェアアプリケーションパッケージへのアクセスを制御する」と解釈することに同意した。しかし地裁が,この機能に結びつく構造を「コンピューター可読のメディアまたはストレージデバイス」とした判断は誤りであるとした。これらのメディアやデバイスは通常の目的のコンピュータに装着されているものである。むしろ,ソフトウェアアプリケーションパッケージへのアクセスを制御するために何か特別なプログラミング,すなわちアルゴリズムが要求される。R社もその発明者も「user identification module」がソフトウェアアルゴリズムを含むことに同意しており,アルゴリズムが必要である。クレーム表現にも明細書にも「user identification module」のアクセス制御機能を達成するアルゴリズムの記載はないため,「user identification module」は必要な構成要件を欠き,クレームを不明確にしている。
 以上より,CAFCは地裁の不明確性の判断を棄却し,R社の訴えを却下した。

(孫 天益)

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