専門委員会成果物

コンピュータを用いて決定した情報を単に保存し要求に応じて提供するだけでは,抽象的なアイデアが特許適格性のある主題に変換されないと判断された事例

CAFC判決 2021年3月11日
In Re:Board of Trustees of the Leland Stanford Junior University

[経緯]

 リーランドスタンフォードジュニア大学(S大学)の出願13/445,925(’925出願)は,特定のタイプの遺伝子データを受信し,数学的計算と統計モデリングを実行してデータ処理することで,ハプロタイプフェーズを決定する方法をクレームしている。
 審査官は,’925出願のクレームは,特許不適格な抽象的な数学的アルゴリズムと精神的プロセスを対象とするとして拒絶をしたが,S大学はこれを不服としてPTABに審判請求した。
 PTABは,Alice事件で確立された2段階のテストを適用した。まず,’925出願のクレーム1は,情報を受け取り,蓄積し又は提供する精神的工程,あるいは数学的コンセプトに向けられており,この数学的プロセスは実用的な適用に結び付けられていないと判断した。次に,’925出願のクレームには,個別に,または全体として,抽象的なアイデアを特許適格性のある主題に変換する独創的な概念を提供する追加の限定は含まれていないと結論付け,特許法101条に基づく特許不適格とした審査官の拒絶を支持した。
 S大学は,これを不服としてCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,Aliceの2段階のテストに沿って,次のように判断し,PTABの判断を支持した。
 まず,第1段階において,’925出願のクレームは抽象的なアイデアに向けられているとした。クレームは,遺伝子情報を受信し,コンピュータを用いて,対立遺伝子のハプロタイプフェーズを決定し,そのデータを保存し,要求に応じて提供するというものである。データの保存と提供以外に具体的な用途は示されていない。S大学が主張するように,従来より多くのハプロタイプフェーズの予測をもたらすという進歩は,数学的プロセスの新しいまたは異なる使用を構成する可能性があるが,説得力はなく,クレームは,対立遺伝子のハプロタイプフェーズを数学的に計算するという抽象的なアイデアに向けられているとした。
 次に第2段階に進み,クレームは,特許適格性のある主題に変換されていないとした。クレームは,数学的アルゴリズムを実際に適用するいかなる手順も示しておらず,代わりにハプロタイプフェーズを保存し,要求に応じてそれを提供することで終了する。単に情報を保存し,要求に応じて提供するだけでは,抽象的なアイデアが特許適格性のある主題に変換されない。クレーム1には特別なメモリーやプロセッサーを備えたコンピュータなどが必要なく,実行される数学的ステップや受信するデータのタイプは従来のものであり,従来技術の範囲であることが明細書の記載からも明らかである,とした。

(新井 一秀)

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