専門委員会成果物

ライセンシーによるIPR最終書面決定に対する控訴が憲法第３条の当事者適格を欠くと判断された事例

CAFC判決　2021年４月７日
Apple Inc. v. Qualcomm Inc.

［経緯］

　Apple Inc.（Ａ社）はQualcomm Inc.（Ｑ社）の保有する特許7,844,037（’037特許）及び特許8,683,362（’362特許）が自明であると主張してIPRを請願したものの，Ａ社の主張を退けるIPRの最終書面決定が2020年１月に出された。Ａ社はこの決定を不服としてCAFCへ控訴した。
　ところでＱ社とＡ社は2019年４月に，当時世界各国で繰り広げていた訴訟の全てを取り下げたうえで，’037特許と’362特許を含む特許ライセンス契約を締結した。それにも関わらずＡ社はCAFCへ控訴したことになるため，Ａ社が合衆国憲法第３条の当事者適格を有するか否かが争点となった。Ａ社は①ライセンス契約に基づく支払い義務が継続していること，②ライセンス契約終了後に’037特許や’362特許を侵害したとして訴えられる可能性があること，③IPRが確定した場合，’037特許と’362特許について有効性の問題を将来提起できなくなること，の３点から当事者適格を有すると主張した。

［CAFCの判断］

　CAFCは当事者適格に関するＡ社の主張を認めなかった。

①に関してＡ社はMedImmune事件（MedImmune, Inc. v. Genentech, Inc., 529 US 118（2007））を引用して自社も当事者適格を有すると主張した。MedImmune事件は，ライセンス対象特許が無効であるとしてライセンシーがロイヤリティーの支払い義務を有さないことの確認判決を求めた事件である。Ａ社は，ライセンシーにロイヤリティーの支払い義務が継続していたことがMedImmune事件における当事者適格の根拠であり，ライセンス対象に含まれる他の特許の状況は無関係だと主張した。しかしながらCAFCは，’037特許と’362特許の有効性が継続的なロイヤリティー支払い義務に影響を与えうる旨をＡ社が主張していないことから，特許の有効性はＡ社の継続的な支払い義務に影響を与えず，よってMedImmune事件は本件に適用されないと判示した。
②に関してCAFCは，過去の判例で憲法第３条の当事者適格が原告に「具体的かつ詳述された損害」を示すことを要求していること，また証明されるべき損害は「具体的で特定された，実際的または差し迫った」ものであり推測的または仮定的であってはならないことに言及した。そのうえで，Ａ社がライセンス契約満了後に’037特許や’362特許の侵害訴訟を引き起こす可能性のある活動に従事する意図や計画を示していないことから，CAFCはＡ社の主張が投機的すぎると判示した。
③に関してCAFCは，禁反言規定は当事者適格に対する十分な根拠にならないことが過去の判例で示されていると判示した。

　以上よりCAFCは，Ａ社が当事者適格を欠くとして控訴を却下した。

（河合　孝広）

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