専門委員会成果物

実施可能なように記載されていない文献は自明性の根拠とはならないと判断された事例

CAFC判決 2021年4月16日
Raytheon Technologies Corporation v. General Electric Company

[経緯]

 Raytheon Technologies Corporation(R社)は,航空機に使用されるガスタービンエンジンに関する特許を保有していた。本特許は,特定の範囲の出力密度を有するギア付きガスタービンエンジンをクレームしていた。General Electric Company(G社)は,本特許のクレームが自明であるとして,IPRを請求した。G社の請求は,文献Knipに開示されたパラメーターからクレームされた出力密度を導き出すことは当業者にとって自明であるというものであった。一方,Knipは将来的な技術予想を開示した文献であるため,Knipに記載されたパラメーターは,優先日に存在していた素材では実現できなかったとR社は指摘した。したがって,クレームされた発明が実施可能とならないKnipを考慮すべきではないと主張した。しかし,PTABは実施可能と判断した。なぜならば,素材が存在したかどうかに関係なく,当業者がクレームされた出力密度を計算可能とするパラメーターをKnipが開示していたためである。そして,Knipを根拠として,当該クレームは自明であるとの結論が支持された。R社はこれを不服として,CAFCに控訴した。  

[CAFCの判断]

 CAFCはR社の主張を支持し,以下に述べる理由によりIPRにおける判断を棄却した。
 CAFCは,クレームされた発明が自明であると判断するためには,先行技術として引用されたものを全体として考慮すれば当業者がクレームされた発明を実施可能でなければならないことを確認した。ただし,個々の先行技術が単独で実施可能であることまでを要求していない。つまり,ある先行技術が実施可能ではなかったとしても,他の先行技術と組み合わせればクレームされた発明が実施可能であれば自明と判断されうると示した。
 IPRではG社は他の先行技術を示すことなくKnipのみに依拠していたため,Knipは実施可能なように記載されていなければならないとCAFCは指摘した。優先日に存在していた素材ではKnipに記載されたパラメーターは実現できなかったことは両社間に争いがないことから,Knipは実施可能としたPTABの判断は誤りであるとCAFCは指摘した。

(東本 健一)

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