専門委員会成果物

ターゲッティング広告を提供するシステムは従来の構成と一般的な機能を用いて抽象的なアイデアを実装したものに過ぎない等の理由により特許適格性を有しないとした事例

CAFC判決 2021年5月11日
Free Stream Media Corp., et al. v. Alphonso Inc., et al.

[経緯]

 Free Stream Media Corp.(F社)が保有する特許9,386,356(’356特許)について,Alphonso Inc.(A社)が侵害しているとして,F社はA社を地裁に提訴した。A社は,’356特許のクレーム(以下,「本件対象クレーム」)が特許法101条における特許適格性を有しないという理由に基づき,却下申立てを地裁に提出した。
 本件対象クレームは,TV等から収集されたユーザーの情報に基づいて,ユーザーの趣味・嗜好に合わせた情報(ターゲッティング広告)を携帯デバイスに提供するシステム等に関するものである。本件対象クレームにて,携帯デバイスが「サンドボックス化」されるとの記載がある。なお,明細書にて,「サンドボックス」はアプリが他のアプリのデータにアクセスできないようにするセキュリティー機構のことであり,このサンドボックスを回避することにより,上記TVおよび携帯デバイス間で通信が行われるとの記載がある。
 上記記載を踏まえて地裁は,本件対象クレームがTVと携帯デバイスとの間でデータを交換する際の障壁を解決するシステムや方法であり,ソフトウェア分野における課題の解決手段であるため,抽象的な概念に向けられたものでなく(Alice最高裁判決の判断ステップ1),本件対象クレームが特許適格性を有すると判断した。A社は,地裁の判断を不服として上訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,Alice最高裁判決の2つの判断ステップを用いた後述の判断により,本件対象クレームには特許適格性がないとし,地裁の判断を棄却した。
 まず,判断ステップ1(抽象的な概念に向けられているか否か)では,CAFCは次のように判断した。明細書にて既知の手法によりサンドボックスを回避するというメカニズムを記載しているが,当該メカニズムの具体的な実現方法が記載されていない。仮に,明細書において当該実現方法が記載されていたとしても,本件対象クレームは,コンピューターの機能の改善を記載しておらず,「ターゲッティング広告」という抽象的な概念に向けられたものである。
 次に,判断ステップ2(発明的なコンセプトを含むか否か)では,CAFCは次のように判断した。抽象的なアイデアが特許適格性を有するには,具体的な発明的な解決手段(発明的なコンセプト)を含む必要があるが,本件対象クレームは,既存のセキュリティー機構であるサンドボックスを回避するために,本技術分野における従来の構成と一般的な機能を用いて抽象的な概念を実装したものに過ぎない。このため,本件対象クレームは発明的なコンセプトを含まず,特許適格性を有しない。

(三宅 望)

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