専門委員会成果物

非自明性の認定が実質的証拠(substantial evidence)によって裏付けられていないことから,PTABの決定が誤りであると判断された事例

CAFC判決 2021年5月28日
Becton, Dickinson and Company v. Baxter Corporation Englewood

[経緯]

 Baxter Corporation Englewood(BA社)は,調剤システム及びテレファーマシーの方法に関する特許8,554,579(’579特許)を保有する。Becton, Dickinson and Company(BE社)は,特許8,374,887(Alexander),特許6,581,798(Liff)及び公開特許2005/0080651(Morrison)の教示に基づき自明であるとして,IPRを申し立てたが,PTABは,’579特許は無効ではないとする決定をした。BE社は,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABの決定は実質的証拠による裏付けがないと判断し,棄却した。
 CAFCは,自明性の問題に関するPTABの決定を検討する際,実質的証拠について,あらためてPTABの法的結論とその事実認定を検討する(MCM Portfolio LLC v. Hewlett-Packard Co., 812 F.3d 1284, 1293(Fed. Cir. 2015))。
 控訴審では,’579特許における(1)検証(verification)と(2)強調表示(highlighting)の2つの限定について争われた。
  1. の限定は,前のステップが検証されるまで,オペレーターが次のステップに進むことを許可しないことを要件とする。PTABは,Alexanderは,オペレーターが続行する前に薬剤師が各ステップを検証してもよい(may)ことのみを開示しており,全てのステップを検証する必要性(must)については開示されていないと判断した。しかし,CAFCは,Alexanderの文脈から,“may”は“occasionally”を意味する訳ではなく,各ステップをチェックすることを選択できることを意味し,また,薬剤師による検証がなければ,非薬剤師は作業をさらに処理することを許可されていないことは明確であるとして,Alexanderの教示と(1)の要件に有意な差はないと判断し,PTABの決定は実質的証拠による裏付けがないとした。
  2. の限定は,オペレーターが,特定のステップに関連する追加情報を入手するために強調表示できるプロンプトを含む対話式画面である。CAFCは,PTABの決定は実質的証拠による裏付けがないとし,最高裁判所が明らかにしたように,既知の方法に従ったありふれた要素の組み合わせは,それが予測可能な結果をもたらすだけである場合,自明である可能性が高く(KSR Int’l Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. 398, 416(2007)),また当業者は自動装置(automaton)ではなく通常の創造性を有する(KSR, 550 U.S. at 421)ことを示した上で,(2)の限定は,Alexander及びLiffの教示により自明であると結論づけた。

(谷元 史明)

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