専門委員会成果物

審査経過における権利範囲の放棄が認定され,非侵害と判断された事例

CAFC判決 2021年6月3日
SpeedTrack, Inc. v. Amazon.com, Inc., et al.

[経緯]

 SpeedTrack, Inc.(S社)は,ユーザが定義した基準に従ってファイルにアクセスするためのコンピュータファイリングシステムに関する特許5,544,360(’360特許)を有していた。
 ’360特許の代表的な方法クレームは,1)カテゴリ記述を含むテーブルを作成する,2)カテゴリ記述がファイルに関連付けられるために,ディレクトリが作成される,3)フィルタが作成される,の3ステップから成り,関連するカテゴリ記述を使用してファイル検索を可能とする。ここに,カテゴリ記述は事前定義された階層関係を有しないとの限定が補正で追加された(以下「階層に係る限定」とする)。この’360特許の侵害を主張して,S社は,Amazon.com, Inc.(A社)を含む様々な小売Webサイト運営者を訴えた。
 地裁は,階層に係る限定について,次の説明を加えてクレーム解釈を示した。「事前定義」とは,第1ステップとして領域が定義され,第2ステップとしてファイルに関連付けられた値が領域に入力されることを意味する。また「領域」「値」という用語は「カテゴリ」「そのカテゴリの例」よりも複雑な関係を意味するものではない。
 この解釈の裏付けとして,地裁は,審査での陳述を分析し,領域と値との階層関係を有するカテゴリ記述について明白に放棄されたと結論付け,この階層関係を用いるA社製品は非侵害であるとする最終判決を下した。S社は,控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁の最終判決を支持した。
 審査での陳述の中で,S社は,’360特許では領域とその領域に関連する値との関係を必要としないが,一方特許5,047,918(Schwarts)では領域と値との階層関係を用いると主張し,この区別を明確化すべく,階層に係る限定をクレームに追加した。ここで審査経過に基づく放棄は補正及び陳述から生じ得るところ,CAFCはその双方が’360特許の審査経過の中に揃うと指摘し,地裁の判断に同意した。
 またS社は,カテゴリ記述間でのみ事前定義された階層関係が排除されることを示しただけだと,この審査経過を異なる方法で解釈した。しかし,S社が事前定義された領域と値との階層関係を相違点として繰り返し強調したために,これにCAFCは同意しなかった。
 加えて,他の理由でSchwartsと区別されたとするS社の立場が,Schwartsと区別されることが補正の目的であるとする他の訴訟での陳述と矛盾することもCAFCは指摘した。さらに,訴訟での陳述は審査経過に基づく放棄を示すものではないとするS社の反論について,クレームが許可を得るためにある方法で解釈される一方被疑侵害者に対しては異なる方法で解釈されることはないのが審査経過に基づく放棄の原則であるとして,CAFCは認めなかった。
 これらの陳述により,CAFCは,審査経過における明確で紛れのない権利範囲の放棄を見出すのに十分であると認定して地裁のクレーム解釈は正しいと判断し,非侵害の最終判決を支持した。

(新妻 瞬)

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