専門委員会成果物

IPRにおける行政特許判事の最終決定をUSPTO長官がレビューできない制限は違憲であり,長官にレビューする権限を持たせるよう判示した事例

最高裁判決 2021年6月21日
United States v. Arthrex, Inc.

[経緯]

 Arthrex, Inc.(A社)は,整形外科用の医療機器に関する特許9,179,907(’907特許)を侵害しているとして,Smith & Nephew, Inc.ら(S社)を訴えた。対してS社はIPRを申請した。PTABの3名のAdministrative Patent Judge(APJ,行政特許判事)は,’907特許は新規性欠如により無効であると判断した。A社は,CAFCに控訴したが,その際,憲法の任命条項を前提とした議論を提起した。A社は,APJは上級官吏であり,上級官吏は上院の助言と承認を得て大統領が任命しなければならないところ,商務長官による任命は違憲であると主張した。CAFCはA社の主張に同意し,APJは上級官吏であるとした。この憲法違反を解決するために,CAFCは,APJの身分保護を無効とし,商務長官の意向で解任できる下級官吏にするとした。また,PTABの決定を破棄し,新たなAPJのパネルによる審理のために差し戻した。
 本判決に対し,政府,S社,及びA社は,それぞれ大法廷での再審理を申し立てたがCAFCはこれを却下した。その後,最高裁により裁量上告が受理された。

[最高裁の判断]

 最高裁は,PTABの構造は憲法の任命条項に合致しているか否か,及び,合致していなかった場合の救済措置について判断した。
 憲法の任命条項は,上院の助言と承認の下,大統領のみが上級官吏を任命できることを規定している。また,Edmond v. United States, 520 U.S. 651において,最高裁は,下級官吏は上院の助言と承認の下,大統領により任命された者によって,ある程度のレベルで指示及び監督されている必要があると述べた。
 しかし,APJには業務を指示及び監督する上級官吏が存在しない。USPTO長官は行政上の監督の手段を持っているものの,APJは行政機関内の名目上の上司や他の上級官吏のレビューなしに米国に代わって最終決定を下す権限を有している。唯一可能とされるレビューは,特許法6条(c)に規定されている,PTABのみが許可できる再審理である。IPRでAPJが行使するレビュー不能な権限は,下級官吏としての地位と相容れないと,最高裁は判示した。
 次に,最高裁は,法律に憲法上の欠陥がある場合には,問題箇所のみを無視し,残りの箇所はそのままにするのが一般的であるとして,CAFCとは異なる解決策を示した。USPTO長官は行政上の監督の手段を持っているので,特許法6条(c)の長官が自らPTABの決定をレビューすることができないとする部分を適用せず,長官はレビューを行い,自ら決定を下してよいとした。そして,適切な救済措置として,S社の申立てを再審理するか決定するよう,長官代行に差し戻すとした。また,USPTO長官のレビュー権限に制限があることが問題であり,商務長官のAPJの任命が問題ではないとして,新たなAPJのパネルによる審理をA社は享受できないと判示した。
 なお,本事件の判決を受け,USPTOは長官レビューの暫定手続きを発表した(2021年6月29日)。当該レビューは長官が自発的に,又は当事者の申請により行われる。申請期限はPTABの最終決定又はPTABによる再審理の決定から30日以内である。 詳細はUSPTOのwebsiteや資料(https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/20210701-PTAB-BoardsideChat-Arthrexfinal.pdf)を参照されたい。

(前田 典子)

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