専門委員会成果物

原告は訴答段階で侵害を立証する必要はなく,侵害を要素ごとに主張する必要もないことを再確認した事例

CAFC判決 2021年7月13日
Bot M8 LLC v. A社

[経緯]

 Bot M8 LLC(B社)は,A社らのゲーム機関連製品が,B社の特許を侵害するとして地裁に提訴した。このうち,特許8,078,540(’540特許),特許8,095,990(’990特許),特許7,664,988(’988特許),特許8,112,670(’670特許)の4件について,地裁は,B社に対して,“侵害されているクレームのすべての要素を訴状において説明し,かつ/または,それができない理由を説明しなければならない”旨の指示を行い,B社は,これに基づいて初回の修正訴状(first amended complaint, “FAC”)を提出した。A社は,’540特許,’990特許,’988特許,および’670特許に関するFACを却下する申し立てを行った。
 地裁は,’540特許および’990特許に関するFACについては,ゲームプログラムと認証プログラムが同じメモリボードにいつどこに一緒に保存されているかが主張されていないとした。また,’988特許および’670特許に関するFACについては,ゲーム開始前に検査プログラムが完了したかどうかを推測する根拠が提供されていないとした。地裁はA社の申立てを認め,B社が提出したFACを却下した。
 B社は,地裁の決定を不服としてCAFCへ控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCはまず,地裁がFACの提出をB社に指示したのは誤りではないとした。そのうえでCAFCは,Ashcroft v. Iqbal, 556 U.S. 662, 678 (2009)及びBell v. Twombly, 550 U.S. 544, 570 (2007)を引用し,却下の申立てにあらがうためには,もっともらしい救済の主張を述べるに十分な事実問題が訴状に含まれなくてはならず,単なる結論に基づいた訴因の要素の説明だけでは不十分であると明示した。しかし,原告は訴答段階で侵害を立証する必要はなく,侵害を要素ごとに主張する必要もないとした。そして,クレームのすべての要素に説明を求めた地裁の指示は,IqbalおよびTwombly最高裁判決の基準を超えているとして,地裁の指示を却下した。
 基準を明確にしたうえで,CAFCは,’540特許および’990特許に関するFACは,十分な事実に基づいておらず時として矛盾しているとして地裁のFAC却下を支持した。一方,’988および’670特許に関するFACは,欠陥検査プログラムの実行がゲーム開始前に完了することをもっともらしく主張し,特定の事実の申立てで裏付けており,これ以上は必要ないとして,地裁のFAC却下の決定は誤りであるとした。この2件の特許侵害については地裁の判決を取り消し,差し戻した。

(藤田 雄作)

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