専門委員会成果物

明細書中に既知の技術として記載された認証技術の組合せは特許適格性を有しないと判断された事例

CAFC判決 2021年8月26日
Universal Secure Registry LLC v. Apple Inc.

[経緯]

 Universal Secure Registry LLC(U社)は,保有する4件の特許(特許8,856,539(’539特許),特許8,577,813(’813特許),特許9,100,826(’826特許),特許9,530,137(’137特許))をApple Inc.(A社)が侵害しているとして地裁に提訴した。
 これらの特許はいずれも電子決済におけるセキュリティに関連している。
 A社は,主張されたクレームは特許法101条において特許不適格であるとして,連邦民事訴訟規則12条(b)(6)に基づき訴えの却下を申し立てた。
 地裁はAlice最高裁判決の2つのステップに基づき,U社の4件の特許は全て特許不適格であると判断し,次のように説明した。すなわち,クレームは「個人IDの安全な検証」という抽象的なアイデアに向けられており,また,これを特許対象となるように変換する発明的なコンセプトも開示していないとした。
 U社は,これを不服として控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは地裁の判断を支持した。Alice最高裁判決の2つのステップに基づき,権利主張された全てのクレームは特許適格性を欠くものと結論づけられた。
 ’539特許には,第三者のレジストリを介して認証することで,ユーザーが個人情報を商店に開示せずに電子決済を行える方法が記載されている。CAFCは,Alice最高裁判決の第1ステップにおいて,クレームは単に一般的な方法で行われる従来の処理を述べたものに過ぎず,基礎となる技術を改善することを目的としていないため,抽象的なアイデアに向けられているとした。また,第2ステップについて,U社は時間変化するコードを認証に用いること,及び商店でなく第三者にデータを送信することが発明的なコンセプトであると主張した。しかしCAFCは,認証のために時間変化するコードを生成することは,’539特許の明細書自体に慣用技術として記載されていると指摘した。また,商店でなく第三者にデータを送信することもそれ自体抽象的なアイデアであり,発明的なコンセプトにはなり得ないとした。
 ’813特許には生体情報等を用いてユーザーが所持する電子デバイスで認証を行い,POSデバイスとの間で決済処理を行うことが記載されている。CAFCは,’813特許のクレームは既知の方法で予期される結果を達成するものに過ぎず,第1ステップにおいて抽象的なアイデアであるとした。また,クレームに述べられている生体情報や識別番号等の情報は既知の認証技術の組合せであり,明細書においても慣用技術として説明されていることを指摘した。これらの技術の組合せにより付加的にセキュリティが向上するという予期通りの結果を生むものに過ぎず,第2ステップにおける発明的なコンセプトに該当しないとした。
 生体情報を用いた認証処理に関する’826特許および’137特許についても,既知の認証技術の組合せに過ぎず,予期せぬ改良をもたらすものではないため,特許適格性を欠くと判断された。

(今村 真之)

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