専門委員会成果物

食品医薬品局への新薬承認申請情報をPTOに提示しなかったため，不衡平行為と判断された事例

CAFC判決　2021年９月１日
Belcher pharmaceuticals, LLC v. Hospira, Inc.

［経緯］

　Belcher pharmaceuticals, LLC（Ｂ社）は，2012年アメリカ食品医薬品局（FDA）へエピネフリン製剤について新薬承認申請（NDA）を提出した。Ｂ社は，製剤生成処理中のpH範囲を既に承認実績のある複数社製品と同じ2.8から3.3の範囲とすることで，2015年にFDAより承認許可を取得した。
　一方，2015年，Ｂ社の製剤生成に関する特許審査の際，Ｂ社はFDAに提出した資料をPTOへ提出することなく，処理中のpH範囲を2.8から3.3とすることによる発明の効果がいかに「予期できない」ほど「重要な」革新であるかを主張し，特許9,283,197（’197特許）として許可された。
　その後，Hospira, Inc.（Ｈ社）がFDAへエピネフリン製剤についてNDAを提出すると，2017年Ｂ社は，Ｈ社が’197特許を侵害したとして特許侵害訴訟を提起した。
　地裁の証人尋問で，①Ｂ社の最高技術責任者が，FDAの承認と特許審査の両方において中心的な役割を担っていたこと，②Ｂ社がFDAへ提出したpH範囲2.8から3.3を開示する複数社製品およびその効果を論じた資料に関する事前の知識を持っていたこと，そして，③その事前知識を持っていたにも関わらず2.8から3.3のpH範囲の「重要性」についての審査官に対して議論したことが証言された。これにより地裁は，FDA申請時の情報を知っていながら，PTOへは開示しなかった点が不衡平行為（Inequitable Conduct）に当たるとして権利行使不能と判断した。Ｂ社はこれを不服として控訴した。　

［CAFCの判断］

　CAFCは，不衡平行為であるための要件は（ⅰ）特許権者側が提出しなかった情報が「重要（material）」であること，及び，（ⅱ）PTOを「欺く意図（intent to deceive）」があったことであることから，それら２つについて，地裁判断を検討した。

　（ⅰ）「重要性」について
　CAFCは，特許審査過程において，PTOが先行技術に開示されるpH範囲（2.2から5.0）にクレームされたpH範囲（2.8から3.3）が含まれるとして拒絶した後，Ｂ社による臨界的意義の主張を受け入れ，特許許可した背景を指摘した。そして，Ｂ社によって差し控えられた情報にクレームされたpH範囲を開示していたことを地裁が立証した上で，特許性判断の重要性を有していたと認めた点について，CAFCは追認した。

　（ⅱ）「意図」について
　Ｂ社に欺く意図があったと明白に示す証拠はないものの，Ｂ社にてFDAへの認可申請及びPTOへの特許出願の両手続きに同一人物が関与していたことについて，そこに欺く意図があったことを合理的に推察すると地裁が結論付けた点について，CAFCは追認した。
　結果，CAFCは，地裁判断を支持した。

（伊藤　英恵）

戻る

ページの先頭へ　