専門委員会成果物

管轄移送動議において,地裁の裁量権濫用による動議否決が否定された事例

CAFC判決 2021年9月24日
IN RE:JUNIPER NETWORKS, INC.

[経緯]

 2020年9月にWSOU Investments LLC d/b/a Brazos Licensing and Development(B社)はJuniper Networks, Inc.(J社)が自社特許を侵害しているとしてテキサス西部連邦地裁(地裁)に訴状を提出した。J社はカリフォルニア北部連邦地裁への管轄移送動議を提出したが,地裁がこれを否決したため,CAFCに対して管轄移送を指示する職務執行令状の請願を行った。  

[CAFCの判断]

 CAFCは請願を認め,地裁の管轄移送動議の否決判断を破棄し,管轄移送動議を認めるよう地裁に指示した。以下が判決の要点である。
  • 地裁の管轄移送動議否決は裁量権の濫用である。
  • 移送判断を行う際,最も重要な判断要素は両裁判地において証人が証言に出席するためにかかるコスト及び利便性であるが,地裁はJ社証人がJ社関係者であること,及び,証言に出席する証人が僅かであるという“推測”からJ社証人の利便性について十分に重要視して判断を行っておらず,これは誤りである。
  • 地域関連性について,地裁は,提訴に至った事象が発生した地域がカリフォルニア北部であると認定しており,これは地域関連性を認めるに足る事実である。地裁はB社がテキサス西部に所在しているという理由でカリフォルニア北部での事象発生の事実を移送判断要素として十分に考慮しておらず,これは誤りである。訴訟のために当事者が一時的且つ短期的に係争地区に所在することは,移送判断の材料とするべきではない。
  • B社は特許権の行使を業としており早期差止を必要としていないにも関わらず,地裁は早期に判決を出す必要性を示していない。また,地裁はカリフォルニア北部連邦地裁で裁判開始までにかかる時間がテキサス西部連邦地裁よりも長いという理由で移送を否決しているが,当理由は地裁の裁判スケジュールに関する情報のみに基づいており,実際の案件数差や裁判開始までの時間に関する統計情報に基づいておらず,根拠に欠ける。
 最後に,CAFCは,当事件は最近判決を出したSamsung Elecs. Co., 2 F.4th 1371(Fed. Cir. 2021)及びHulu, LLC, No.2021-142, 2021 WL 3278194(Fed. Cir. Aug. 2, 2021)と近しい事件であり,これら事件の判断が当事件の判断に多大な影響を及ぼしていると述べた。
 以上により,当事件においては,複数の重要な判断要素が移送を支持するものであり,移送元裁判所へ縛る要素は何も無い,と結論付けた。

(小野寺 聖)

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