専門委員会成果物

控訴開始前の和解は「当事者適格の欠如」の問題であり,訴訟継続中の「争訟性欠如」の問題ではないことを示した事例

CAFC判決 2021年11月10日
Apple Inc. v. Qualcomm Inc.

[経緯]

 Qualcomm Inc.(Q社)は,携帯のショートメールおよび携帯アプリの切替方法に関する特許7,844,037号および特許8,683,362号に係る特許権を保有する。Q社は,Apple Inc.(A社)が当該特許権を侵害しているとしてA社を被告として地裁に提訴した。これを受けてA社は,PTABにIPRを申請した。
 その後,2019年に,両者は世界中のすべての訴訟に関して和解し,グローバルライセンス契約を締結した。
 IPRにおいて,PTABはA社が特許クレームの無効性を証明していないとする最終決定を下した。A社はCAFCに控訴した。
 本件(“Apple II”)の前に,Q社の保有する他の特許権に関して同様の経緯をたどった事件(“Apple I”)があった。そこでは,A社の当事者適格が争われた。A社は,継続中のライセンス契約に基づく支払い義務がある,その契約が終了した後に侵害で訴えられる可能性がある,将来異議申し立てが禁じられる可能性がある,という3つの見解を主張したが,CAFCは,A社が当事者適格を欠くとして,A社の主張を却下した。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,本件においても,Apple Iと同様に,A社が当事者適格を欠くとして控訴を却下した。
 A社は,対象特許が異なるものの本件の重要な事実関係がApple Iの重要な事実関係と同じであると認めたにも関わらず,Apple Iでは明確に取り上げられなかった“微妙な差異”を提起したと主張した。A社は,A社が仮にライセンス料の支払いを止め,契約が終了した場合に発生する脅威が,なぜ当事者適格を支持する十分な損害とならないのか,Apple Iでは説明していなかったと主張した。しかし,実際には,A社はApple Iにおいてこの問題を提起しており,CAFCはすでにこの主張を否定している。従って,CAFCは,本件においてもA社は当事者適格を欠くと判断した。
 また,A社は,United States v. Munsingwear, Inc.(340 U.S. 36, 40(1950))を引用し,裁判所は訴訟係属中に争訟性がなくなった控訴事件においては,控訴の基礎となった決定を破棄すべきであるから,本件について管轄権のないCAFCはPTABの決定を破棄すべきであると主張した。
 しかし,CAFCは,A社の損害がQ社との和解によりCAFCの管轄となる前に消滅したため,A社の問題は控訴開始時点での「当事者適格欠如」の問題であり,「争訟性欠如」の問題ではないとした。そして,仮に本件が争訟性欠如の問題であったとしても,A社が自主的にQ社と締結した和解によってCAFCの管轄権が消滅したのであるから,PTABの決定を破棄することは不適切であると述べた。

(雜賀 慶彦)

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