専門委員会成果物

明細書に記載の実験値を単に継ぎ接ぎして数値範囲をクレームするのは不適切であるとされた事例

CAFC判決 2021年11月24日
Indivior UK Ltd. v. Dr. Reddy’s Laboratories S.A.

[経緯]

 Indivior UK Ltd.(I社)は,舌下および口腔投与用フィルム組成物に関する特許9,687,454(’454特許)を保有する。’454特許には水溶性ポリマーマトリックスの含有量について,クレーム1は40〜60wt%,クレーム7,12は48.2〜58.6wt%の範囲が記載されていた。一方,’454特許の基礎出願12/537,571(’571出願)の明細書には,「少なくとも25wt%」,「少なくとも50wt%」と記載されていた。また,表1,5では水溶性ポリマーマトリックスの含有量について,40〜60wt%の範囲内での特定の数値が示されていた。ただし,表1,5に数値範囲は記載されていなかった。
 Dr. Reddy’s Laboratories S.A.(D社)は,’454特許のクレーム1,7,12に記載の数値範囲は,’571出願の明細書に記載されていないため優先権の利益を享受せず,’571出願の公開公報に基づき自明であるとして,IPRを請願した。
 PTABは,クレーム1,7,12に記載の数値範囲は’571出願に記載されていないため,これらのクレームを無効とする決定をした。I社は,PTABの判断が不服であるとして,CAFCに提起した。    

[CAFCの判断]

 表1,5に記載の数値は40〜60wt%の範囲内であるものの,これらの値は特定の実験値の値であり範囲を形成していない。クレームの数値範囲は明確に明細書に記載されている必要があるため,’454特許のクレーム1に記載の数値範囲は’571出願に記載されているとはいえないとCAFCは判断した。
 表1,5に記載の数値を計算すれば,48.2wt%,及び58.6wt%の値をそれぞれ掴み取ることはできる。しかしながらI社は「48.2〜58.6wt%」の範囲が当業者にとって自明な範囲であるかを説明しておらず,表1,5の実験値を単に継ぎ接ぎして数値範囲をクレームするのは不適切である。したがって,’454特許のクレーム7,12に記載の数値範囲は’571出願に記載されているとはいえないとCAFCは判断した。
 以上より,CAFCは,数値が範囲として規定されているクレーム1,7,12は,明確に’571出願に記載されていないとして優先権を否定し,PTABの決定を支持した。

(谷口 直秀)

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