専門委員会成果物

数値限定クレームの有効数字が明細書および審査履歴を考慮して狭く解釈された事例

CAFC判決 2021年12月8日
AstraZeneca AB v. Mylan Pharmaceuticals Inc.

[経緯]

 AstraZeneca AB(A社)は,喘息等の呼吸器疾患の処置に関連する3つの特許権を侵害されたとしてMylan Pharmaceuticals Inc.(M社)を提訴した。
 地裁では,クレームに含まれる有効成分の1つであるPVPの濃度「0.001%」との用語を「平易かつ通常の意味,すなわち有効数字1桁で表現されたもの」と広義に解釈し,M社の侵害を認めるとの判決を下した。M社はこの結果を不服として控訴した。    

[CAFCの判断]

 A社は地裁がこの用語を0.0005〜0.0014%の範囲を包含するよう広義に解釈したと主張する一方,M社は明細書および審査履歴に照らして,用語は狭義に解釈されるべきであり,「わずかな変動」しか認められないと主張した。
 CAFCは,M社の提案する解釈の方が明細書および審査履歴とより適切に一致すると判断し,「0.001%」の適切な解釈は,0.00095〜0.00104%のわずかな変動を認めるだけであると述べた。「0.001%」という用語が,通常,0.0005〜0.0014%の範囲を包含していることに異論はないが,CAFCは,この用語がクレーム,明細書および審査履歴から不適切に切り離されていると判断した。
 CAFCは,「通常の意味」とは,「特許全体を読んだ後の通常の当業者にとっての意味」であり,クレームは明細書と審査経過の両方を考慮して読まなければならないと説明した。
 明細書には,PVP濃度のごくわずかな違いが安定性に影響を与える可能性があると説明しており,さらに審査履歴において,クレームされたPVPの濃度を「約0.0005〜約0.05%」から「0.001%」に狭め,「約」という用語を削除し,クレーム範囲を狭めていることも指摘した。これらに基づき,用語をM社の提案するように狭義に解釈すべきと述べた。
 結果として,CAFCは,地裁による侵害の判決を取り消し,侵害の判断を地裁に差し戻した。

(村上 大樹)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.