専門委員会成果物

EPOとEUIPOが欧州における知的財産権と企業の業績に関する研究結果を公表

 2月8日,欧州特許庁(EPO)および欧州連合知的財産庁(EUIPO)は,企業における知的財産権の保有有無や保有する知的財産権の種類とその企業の業績との間に確かな関連性があるとする研究結果を公表した1),2)。
 本研究は,2015年のEUIPO(2015年当時はOHIM)の研究3)を最新の情報に更新したもので,前回12ヵ国であった分析対象国を欧州連合の全加盟国(28ヵ国)へと拡大したものである。分析対象企業は127,000社を超え,分析対象の知的財産権は欧州及び分析対象国とした各国の特許,商標,意匠である。

 【企業規模】
 従業員が250名以上の企業を大企業,従業員が250名未満の企業を中小企業と定義し,大企業11,190社,中小企業116,190社を分析対象としている。
 大企業では知的財産権を保有する企業の割合は55.6%,非保有の企業の割合は44.4%であった。一方,中小企業では知的財産権を保有する企業の割合は8.7%,非保有の企業の割合は91.3%であった。

 【平均従業員数】
 特許,商標,意匠のいずれかの知的財産権を保有する企業の平均従業員数は13.5人であるのに対して,知的財産権を全く保有していない企業の平均従業員数は5.1人であった。

 【企業収益】
 特許,商標,意匠のいずれかの知的財産権を保有する企業の従業員1人当たりの収益は,知的財産権を全く保有していない企業よりも20%高くなっている。また,特許を保有する企業では36%,商標を保有する企業では21%,意匠を保有する企業では32%,従業員1人当たりの収益が知的財産権を全く保有していない企業よりも高くなっている。
 企業規模でみたとき,従業員1人当たりの収益は,大企業では知的財産権保有企業の方が非保有の企業よりも18%高く,中小企業では同様に58%高くなっている。欧州における中小企業の大半は知的財産権を保有していないが,知的財産権を保有する中小企業では従業員1人当たりの収益が大幅に増加している。このように,知的財産権の保有の有無と従業員1人当たりの収益増加の関連性は,大企業と比較して中小企業において顕著である。
 また,全企業を対象としてみたとき,商標と意匠を保有する企業では,従業員1人当たりの収益が非保有の企業よりも63%高く,特許,商標,意匠を保有する企業では,従業員1人当たりの収益が非保有の企業よりも60%高くなっている。特許のみでは43%,商標のみでは56%,意匠のみでは31%,特許と意匠を保有する場合は39%,従業員1人当たりの収益が非保有の企業よりも増加している。このように,企業収益の増加は知的財産権の種類と組合せに依存することが示されている。

 【賃金】
 特許,商標,意匠のいずれかの知的財産権を保有する企業の従業員1人当たりの賃金は,知的財産権を全く保有していない企業よりも9%高く,特許を保有する企業では53%,商標を保有する企業では17%,意匠を保有する企業では30%高くなっている。
 従業員1人当たりの収益,賃金ともに特許を保有している企業が最も高くなっている。

注 記

  1. EPOプレスリリース(2021年2月8日)
    https://www.epo.org/news-events/news/2021/20210208.html
  2. 研究レポート全文(2021年)
    https://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/7120D0280636B3E6C1258673004A8698/$File/ipr_performance_study_en.pdf
  3. 研究レポート全文(2015年)
    https://euipo.europa.eu/ohimportal/documents/11370/80606/Intellectual+property+rights+and+firm+performance+in+Europe

(参照日:2021年2月8日)    

(和田 学)

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