専門委員会成果物

EPO,2020年の特許出願統計発表:ヘルスケア分野の技術革新が欧州特許出願を牽引

 3月16日,欧州特許庁(EPO)は,2020年の欧州特許出願の統計と,最近の技術動向について考察したPatent Index 20201),2)を発表した。
 統計によれば,2020年の欧州特許出願件数は180,250件であった。これは,昨年比で−0.7%にとどまっており,全体としては新型コロナウイルスのパンデミックの状況下にもかかわらず出願件数は安定している。
 出願人の国別の件数に着目すると,米国(−4.1%)・日本(−3.0%)やドイツ(−3.0%)・イギリス(−6.8%)・オランダ(−8.2%)などの欧州主要国からの出願が減少している。一方,中国と韓国からの出願は増加しており,EPOのチーフビジネスアナリストのAidan Kendrick氏は「米国,欧州,日本からの出願の減少が韓国と中国からの出願の継続的な増加で相殺されている」と指摘している。
 技術分野別の出願件数の傾向としては,1位に医療技術(昨年比+2.6%),6位に医薬品(+10.2%),8位にバイオテクノロジー(+6.3%)とヘルスケア分野に関する出願が大きく伸びており,上記3つの技術分野の出願件数の合計は2020年の欧州特許出願全体の16.7%を占める。
 1位の医療技術に関する欧州特許出願は全体の38.6%を米国企業,38.2%を欧州企業が占めており,欧米企業がリードしている。韓国と中国は,欧米企業と比べて出願件数は少ないが,韓国は昨年比で+13%,中国は+34.4%と大きな伸びを示した。
 6位の医薬品分野に関する欧州特許出願の出願人は,全体の41.8%が欧州企業,39.1%が米国企業だった。この分野の出願人としてはフランスの公的研究機関が118件で1位,米国の大学が71件で5位となっている。また,そのような機関からスピンオフした中小企業も多くみられた。
 8位のバイオテクノロジーに関しては,アジアの企業からの欧州特許出願の増加がみられる。2020年は,日本(+18%),韓国(+31.5%),中国(+75.4%)の企業によるバイオテクノロジー関連の欧州特許出願が大きく増加した。
 このように,パンデミックが産業に大きな影響を与えているが,ヘルスケア分野の出願の伸びは新規ワクチンや治療薬のための研究や,診断装置や医療機器の開発への投資が活発であることを示している。
 ヘルスケア分野以外の技術分野では,2019年に最も出願件数が伸びていたデジタル通信技術分野やコンピュータ技術は依然として出願が活発で,前年比で1〜2%程度の伸びを示している。これらの分野は2020年の欧州特許出願全体の15%以上を占めている。
 その他,電気やエネルギー関連の分野のほとんどが増加しており,再生可能エネルギーや送電,蓄電など第4次産業革命に向けた技術が引き続き重要であることを示している。逆に,輸送関連技術の出願は昨年と比べて5.5%減少しており,景気の後退を反映している。

注 記

  1. EPOプレスリリース(2021年3月16日)
    https://www.epo.org/news-events/news/2021/20210316.html
  2. Patent Index 2020
    https://www.epo.org/about-us/annual-reports-statistics/statistics/2020.html

(参照日:2021年4月19日)    

(秋山 聡)

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