専門委員会成果物

WIPO調査報告:消費財への適用に伴い,支援技術が大幅に成長

 人々の動作,視覚および他の障碍への克服を支援する技術が近年2桁台の成長率を示しており,これらの支援技術が消費財へ大幅に適用されていることをWIPOがレポートにて公表した1)。  WIPO Technology Trends Report 2021:Assistive Technologies2)によると,現在10億人以上の人々が支援技術を必要としており,10年後には高齢化に伴い2倍の人々が支援技術を必要とすると予想している。また,この支援技術が家庭用電化製品や福祉製品への適用に集中していることが,この支援技術の更なる商用化を示している。  レポートの統計によれば,既存製品への僅かな改良から最先端技術への開発に至るすべての技術が,障碍を持つ人々の生活を大幅に改善できることを示し,これらの技術が,そのような人々の周囲環境,意思疎通,仕事および自立した生活を支援することで,日常生活での障碍を克服することに役立つことを示している。さらに,このレポートでは特許とその他データを用いて,この支援技術のグローバルな展望に対して信頼できる事実証拠を提供しており,また,実業家,研究者および政策立案者に対しての知識データベースを作成したものである。  レポートでは,さらに以下が記載されている。
  • 1998年から2020年中頃までに公開された従来型および新たな支援技術に関する13万件以上の特許を特定し,この新たな支援技術に関しては1万5,592件の出願が行われた。
  • この新たな支援技術に関する出願には,支援ロボット,スマートホームアプリケーション,視覚障碍者用のウェアラブルおよびスマートグラスが含まれており,従来型の支援技術と比較して,3倍以上の早さで成長している。(2013年から2017年までの期間において第1国出願が行われ,かつ公開された出願における平均年間成長率(以下,AAGR)は17%)
  • その中で特に成長が早い領域は,周囲環境支援技術(42% AAGR),動作支援技術(24% AAGR)である。この周囲環境支援技術には,公共の場におけるナビゲーション支援や支援ロボットが含まれる。
  • この支援技術は,家庭用電化製品や医療への適用に集中している。また,障碍を持った人々のために開発された技術が主流製品に適用されている。例えば,聴覚障碍者を支援する骨伝導技術がランナーのヘッドセットに適用されている。
  • 18%が既に商用化されているが,この新たな支援技術のほとんどは開発段階である。
  • 支援技術を専門とする企業に加え,Panasonic, Samsung, IBM, GoogleおよびHitachiのような電機メーカーや,ToyotaおよびHondaのような自動車メーカーが主要プレーヤとなっている。
  • 大学や公的研究機関では,この新たな支援技術に対して熱心であり(従来型の支援技術が全出願の11%に対して,新たな支援技術への出願が23%),特に自動車の領域への取り組みが活発である。(全出願人のうち34%)
 WIPOのIP and Innovation Ecosystems SectorのMarco Aleman氏は「人々の制約を克服するための支援技術が今,幅広い消費財に適用されている。例えば,脳性麻痺を患う人々によるコンピュータの使用を支援するブレイン・マシン・インターフェースや眼球動作認識を備えた機器がゲームや通信アプリケーションにて取り入れられている。このような生活を向上させる技術が本格的な商業化に向かっていると同時に,それらを必要としている人々のためにもなることは非常に朗報である。」と語っている。
 レポートでは,知的財産権が支援技術を成長させていると結論付けており,このレポート作成に携わった専門家は,支援技術を必要とする人々に対してもっと広く利用できるようにしていく必要があると強調した。現在,世界で支援を必要としている人々のうちたった10人に1人しか支援技術に係る商品を利用することができていない。今回のレポートにより,支援技術の利用を促進するための知識データベースを提供し,障害者権利条約(CRPD)や世界保健機関(WHO)の活動のもとにある支援技術に対するグローバルな議論を支援することがWIPOの狙いである。

注 記

  1. EPOプレスリリース(2021年3月23日)
    https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2021/article_0003.html
  2. WIPO Technology Trends 2021:Assistive Technology
    https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_1055_2021.pdf

(参照日:2021年6月21日)    

(疋田 拓己)

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