専門委員会成果物

宇宙技術における世界的な特許動向に関する新しいレポートを公開

 7月21日,欧州特許庁は宇宙技術における世界的な特許動向に関する新しい研究レポートを公開した1),2)。本研究は,欧州特許庁と欧州宇宙政策研究所(ESPI)が欧州宇宙機関(ESA)と共同で行ったものであり,宇宙技術における主要な特許出願の動向を調査している。
 60年前に初めて人類が軌道に乗った時,宇宙技術はほんの数か国の国家機関の独占的な領域だった。今日,宇宙技術は今までにないほど急成長している。年間の打ち上げ数は約500に増え,宇宙分野の拡大の兆候を示している。
 衛星打ち上げによる商業収入は,2011年の2,159.4億米ドルから,2019年には3,369.0億米ドルとなっており,この10年で商業収入は50%以上増加している。民間資本の流入は徐々に増加しており,特許出願活動の2007年から2017年の間で3倍以上の驚異的な増加の要因となっている。
 宇宙技術におけるグローバルな特許ファミリの出願件数は,過去10年で300件程から1,200件程に大幅に増加した。
 発明者の出身国別の出願状況の内訳は,アメリカ 38%,中国 19%,日本 10%,ドイツ 9%,韓国 5%,ロシア 5%となっており,日本出身の発明者からの出願数は,アメリカ,中国に続き3番目に多い。特に中国に注目すると,10年前に特許出願がほとんど0件だったが,2018年には全特許ファミリの50%以上を占めるまでに急成長しており,年次統計では中国の特許出願の数が米国を上回っている。ただし,中国国家知識産権局(CNIPA)への出願の大部分は国外ファミリ出願のない国内出願である。またヨーロッパの特許出願の増加は,主にドイツとフランスからのものであり,約85%の特許は民間企業により所有されている。
 さらに,宇宙技術における特許出願を,推進力,構造,システム制御,メカニズム,搭載電力,熱,ロボット工学(テレプレゼンス,自動化を含む),スペースデブリの8つの分野に分類した統計の調査結果は,すべての分野でグローバル特許出願件数が増加していることを示している。特に推進力やシステム制御,搭載電力の分野での出願件数が大きく増加しており,この分野でイノベーションを推進していることがわかる。
 豊富なグラフと解説を含むこの研究レポートは,急速に拡大するテクノロジードメインをよりよく理解したい科学技術者,企業及び投資家の役に立つであろう。

注 記

  1. 欧州特許庁ニュースリリース(2021年7月21日)
    https://www.epo.org/news-events/news/2021/20210721a.html
  2. Patent insight reports
    https://www.epo.org/searching-for-patents/business/patent-insight-reports.html

(参照日:2021年8月25日)    

(濱 明香)

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