専門委員会成果物

英国知的財産庁が過去20年間の特許出願に関する研究結果を公表

 英国知的財産庁(IPO)が,過去20年間(2000年から2020年)の特許出願を分析し,欧州特許庁(EPO)と比較した研究結果(The changing profile of users of the UK patent system)を発表した1)
 IPOへの出願が減少する一方,EPOへの出願が増えていること,また近年中国からの出願が突出して増えている状況が明らかになった。概要は以下の通り。

【出願・公開・登録件数】
 IPOへの出願はこの20年間減少を続けたが,2010年頃に変化が表れており,後半10年は前半10年よりも減少が緩やかであった。より詳しい分析の結果,落ち込みの大部分は,英国を拠点とした企業や個人によるものであることがわかった。一方でそれ以外のユーザーたち,英国を拠点としない企業,比較的規模の大きい企業,及び,国際特許出願(PCT)による出願の需要は維持されている。
 また出願件数が減少する一方で,公開件数および登録件数は一定数を維持している。そのため公開率及び登録率は上昇しているが,これは上述の出願人の変化に起因するものであると考えられる(例えば,個人に比べて企業は公開及び登録まで持っていく割合が多い)。

【個別要因分析】
 特許出願に影響を与える要因を検討したところ,2008年の大不況(リーマンショック)が出願人の行動に大きな影響を及ぼしたようである。この時期に出願の大幅な減少があった。
 一方でBrexitについては,欧州特許条約(EPC)はEU制度から独立しており,英国出願に影響がないこと,また出願数の変化も一時的で軽微なものであったことから,Brexitによる直接的な影響はないと考えられる。
 2003年〜2005年,2010年〜2012年におけるIPOとEPOの審査早期化の取り組みについては,審査の積み残しの解消に貢献し,登録件数の一時的な増加につながった。

【出願人動向】
 英国出願人はEPOよりIPOを利用する傾向があったが,年々その傾向は少なくなっている。また出願人の中には,IPOからEPOに移行しているエビデンス(例えば,EPOのEarly Certainty from Search制度との関係性など)もある。
 IPOへの出願の大部分は引き続き英国出願人からであることは変わっていない。但し,英国出願人の出願が減少した一方で,海外からの出願は一定レベルにとどまっているため,英国出願人の割合は減少している。
 海外からの出願人の構成は変化しており,米国・EPCメンバー国・中国以外の東アジアからの出願が減少傾向である一方で,中国からの出願が大幅に増加していることがわかった(2013年頃から急増,2020年は2019年の約2倍)。

【技術分野・その他】
 IPOへの出願の最大の技術分野は,土木工学,コンピューター技術,および輸送分野である。以前は電気通信分野がこれに含まれていたが,調査期間中に大幅に減少した。多くの大企業は,IPO・EPOへの電気通信分野の出願を減らしている傾向がある。
 IPOは通常,第一国の出願官庁として使用され,出願の40%以上が後の優先権主張の基礎として使用されている。

注 記
1) 英国IPOニュースリリース(2021年8月9日)
https://www.gov.uk/government/publications/the-changing-profile-of-users-of-the-uk-patent-system

(参照日:2021年8月9日)    

(伍賀 靖洋)

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