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〈中国〉二重出願の実用新案権の権利行使不可との判例

 中国では同一発明について同日に特許出願と実用新案登録出願を行う二重出願制度が採用されているが,最高裁判所知的財産法廷は,2021年7月23日に(2020)最高法知民终699号の判決にて,「特許出願は特許要件を満たさず特許不成立が確定したため,対応する実用新案権の権利行使を認めない」との決定を下した。
 最高裁判所知的財産法廷は,判決の中で,以下のように述べている。
 「同一の出願人が同日に特許出願と実用新案登録出願する場合,実用新案登録出願は実体審査なしで付与され,特許出願は特許権付与前に実体審査を受けなければならないため,実際には,同じ技術的解決策であっても,特許出願の審査では拒絶されたり補正されたりしても,実用新案登録出願の手続きでは認められることがある。このような場合,特許出願の審査の結論が実用新案権の保護に影響を与えるかどうかは,個別に分析する必要がある。
 一般的に,出願人が同一の技術的解決手段の発明に関する特許出願の審査の結論を承認した場合,または同一の技術的解決手段の発明に関する特許出願が新たな対比文献を使用せず,新規性がないとして拒絶された場合,通常,同一の技術的解決手段の実用新案権が付与可能かどうかを判断する根拠とすることができ,考案が保護を受けるべきかどうかに実質的に影響を与える可能性がある。
 しかし,同じ技術的解決方法の発明の特許出願が進歩性を欠くとして拒絶された場合,発明と考案の進歩性要件の違いに十分配慮し,異なる取り扱いがなされるべきである。発明と考案の進歩性の要件には違いがあるが,その違いは主に先行技術の技術分野と対比文献の数である。
 本件の進歩性欠如は,対比文献2という1つの対比文献を使用しただけであったことから,発明の保護が認められない技術的解決策が,発明と考案の進歩性要件の相違により考案の保護を受けることができる場合があるという事態は生じなかった。」
 上述の判決にて「発明と考案の進歩性の要件の違いは,主に先行技術の技術分野と対比文献の数である」と述べられた部分は,専利審査指南(第4部 第6章 第4節)と対応している。上述の判決の今後の影響は未だ定かではないが,日本企業においても,早期保護を確保するため,二重出願制度を戦略的に取り入れている企業は多数あるため,実用新案権の権利行使の際には,特許の審査結果を十分に留意する必要がある。

<参考>
(2020)最高法知民终699号
 https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-1410.html
 専利審査指南(第4部 第6章 第4節)
 12https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/section.html
4.実用新案専利の創造性の審査

  1. 現有技術の分野  
      発明専利については,当該発明専利の属する技術分野のみならず,それに隣接若しくは関連する技術分野,及び当該発明により解決されたい技術的課題でその分野の技術者が技術的手段を探り出すこととなるほかの技術分野を合わせて考慮しなければならない。  
      実用新案専利については一般的に,当該実用新案専利の属する技術分野に着眼して考慮すべきである。ただし,現有技術で明らかなヒントが与えられる場合,例えば,現有技術に明確に記載されており,その分野の技術者が隣接或いは関連する技術分野から関連の技術的手段を探り出すこととなる場合には,その隣接或いは関連する技術分野を考慮してもよい。
  2. 現有技術の数  
      発明専利については,1つや2つ,或いは複数の現有技術を引用してその創造性を評価することができる。  
      実用新案専利については,一般的に1つや2つの現有技術を引用してその創造性を評価することができる。「単純に重ねている」現有技術により成された実用新案専利の場合は,状況に応じ複数の現有技術を引用してその創造性を評価することができる。

 (URL参照日:2022年3月4日)

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