外国特許ニュース

IPランドスケープによる，イスラエルにおけるスタートアップ企業の事業／知財状況分析①

　国際第４委員会では、IPランドスケープの定義を、「JIPA会員企業、競合他社、市場の研究開発、経営戦略などの動向および個別特許などの技術情報を含み、会員企業の市場ポジションや出願戦略などを検討する上で有用な、現状の俯瞰・将来の展望などを示すもの」と定めて、グローバル企業の出願戦略などをひも解き、会員企業の皆様へ新たな気づきをお届けするための活動を行っています。
今回は、スタートアップ大国として知られるイスラエルに着目し、イスラエル発のスタートアップ企業の中でも、自動運転分野で頭角を現わし、2017年に米国のIntelが1.7兆円で買収したMobileyeに焦点をあて、事業・知財分析などを駆使しながら、なぜ、MobileyeがIntelから買収されるに至ったのか、その理由を探りました。本件は、２回に分けて、皆様にお届けいたします。

＜お届けする内容＞

①JETROテルアビブとの意見交換などを通じて得た、イスラエルの最新基本情報およびMobileyeの概要

②Mobileyeの特許出願動向分析からみた、なぜMobileyeがIntelから買収されるに至ったのか？

イスラエル基本情報^１）

国土面積	2.2万KM （日本の四国程度）
人口（2021年4月時点イスラエル通用統計局）	約９３４万人
GDP （2020年世界銀行）	4,019億ドル
1人あたりのGDP	約43,610ドル
（参考）日本	約40,000ドル

図１に示すように2020年のイスラエルの居住者による国内出願件数は約1,600件に対して，外国への出願件数は，約15,000件と，外国への出願に積極な姿勢がうかがえます。

図１　イスラエルにおける特許出願動向^２）

イスラエルにおけるスタートアップエコシステム^３）
イスラエルは科学技術立国を目指し，1960年代から下記のように様々な施策を行ってきました。

1965年Office of the Chief Scientist（OCS）設置。
1979年～　タルピオット「技術エリート」育成プログラムであり，国防軍，大学，産業界が共同で様々な内容を提供し，卒業後は起業や大学での研究等に従事し，強いネットワークによる相互扶助の基盤となっています。
1993～1998年　ヨズマプログラム
政府が１億ドルを拠出し，民間VCやスタートアップに直接投資。税制優遇制度もあり，民間VC育成，海外からの投資を呼び込む好循環となりました。
2016年～
OCSから，イノベーション庁（IIA）となり，IIAが主体にスタートアップを支援するようになりました。

　これらの施策の背景には，自国防衛のために開発された軍事技術の民間転用があり，これらの科学技術を活用することで，図２に示す，国内よりも海外市場を目指すスタートアップエコシステムが形成されてきました。

図２　スタートアップエコシステム概略図^３）

　国主導のスタートアップの育成システムが成果をあげていることは，数多くのユニコーン企業の存在だけでなく，WIPOのグローバルイノベーションインデックス2021^４）からも見て取れます。
　表１に示すように，GDPあたりのベンチャーキャピタルの投資案件数，海外出資による研究開発の総支出額が世界１位となっており，イスラエル発のスタートアップが海外から資金を獲得し，成長している構図がうかがえます。

表１：グローバルイノベーションインデックス2021でイスラエルが１位である主な項目^前掲４）

評価軸	世界１位の項目
人的資本と研究	研究開発の総支出額（GDPあたり）
市場の洗練度	ベンチャーキャピタル投資案件数（GDPあたり）
市場の洗練度	ベンチャーキャピタルの受け入れ件数（GDPあたり）
事業の洗練度	企業が行う研究開発の総支出額（GDPあたり）
	産学連携での研究開発の度合（アンケート結果）
	海外支出による研究開発の総支出額（GDPあたり）
知識および技術の算出	PCT出願件数（GDPあたり）
知識および技術の算出	ICTサービスの輸出額（貿易総額に占める割合）

Mobileye基本情報
1. （１）本社所在地／設立年
  Mobileyeは，ITなどのテクノロジーを駆使したビジネスを展開する企業であり，1999年に設立されました。主に，ADAS（Advanced Driver-Assistance Systems，先進運転支援システム）開発等を手がけ，登記上の本社はオランダ・アムステルフェーンですが，開発拠点はエルサレムにあります。2017年に買収され，Intelの子会社（非上場）となっています。
2. （２）事業状況
  Mobileyeの歴史を示します^５）。
  1999年：Mobileye創業
  2004年：最初のシステムオンチップを開発
  2016年：マッピングテクノロジー「REM」をリリース，BMW，Intelと自動運転開発連合結成
  2017年：Intel傘下へ
  　　　　　買収額は約153億ドル
  2020年：アジア圏・ドバイにおける
  　　　　　自動運転計画を発表
  2021年
  ４月：自動運転システム「Mobileye Drive」概要発表
  ５月：トヨタのADAS開発ベンダーに選定
  12月：IntelがMobileyeを2022年内に上場させると発表
  12月：丸紅がMobileye，Moovit社と業務提携を締結
3. （３）技術開発動向
  　Mobileyeは単眼カメラを主体としたADASソリューションの開発・製品化を行っており，2021年には累積で１億ユニットの出荷を達成したと発表しています^６）。
  　Mobileyeは，また，2016年に自動運転車向けのマップを生成する技術「REM（Road Experience Management）」を発表しています。REMとは，車載カメラの映像をクラウドに収集・蓄積する技術を核とする自動高精度地図生成システムを意味し，世界全体に渡るスケーラブルなマップを作成・更新することができます^７）。このREMによるマップを活用した自動運転の実証実験が，世界各地で開始されています^前掲６）。
  　Mobileyeは，さらに，2017年に責任感知型安全論（Responsibility-Sensitive Safety, RSS）を発表しています。RSSとは車が安全走行する方法を数式で示した検証可能なフレームワークとのことであり^８），現在，「IEEE P2846」で標準化作業が進められています^９）。
  　Mobileyeは，これらのADASソリューション，REM，RSS等を組み合わせることで，レベル４以上の自動運転システムを一般消費者向けの市販車に搭載できるコストまで引き下げていくと発表しています^前掲６）。

１）イスラエル基礎データ｜外務省 (mofa.go.jp)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/israel/data.html

２）WIPOホームページ統計資料
https://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/country_profile/

３）国際情勢ウェビナー（2021/08/27）「イスラエルを取り巻く世界情勢の変化と同国の可能性」　講演資料「イスラエルのイノベーション動向と今後の可能性」
https://www.cfiec.jp/jp/pdf/gpr/webinar-2021-08-27-3.pdf

４）Global Innovation Index 2021 rankings
https://www.wipo.int/global_innovation_index/en/2021/

５）Mobileye（モービルアイ）の自動運転戦略（2022年最新版）
https://jidounten-lab.com/u_mobileye-history

６）モービルアイアムノン・シャシュアCEO、レベル4自動運転向け最新半導体「EyeQ Ultra」とADAS向け半導体「EyeQ6H」「EyeQ6L」を詳説
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1379315.html

７）Mobileye、自動高精度地図生成システム「REM」の最新情報
https://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/ces2020/1229179.html

８）責任感知型安全論（RSS）について：自律走行車の安全性を確保する5つの原則
https://newsroom.intel.co.jp/articles/rss-explained-five-rules-autonomous-vehicle-safety/#gs.v8ynm3

９）自動運転「安全」標準化のなぜ　Mobileye、驚きの分業構想
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01456/00004/

（注）｢アジア・オセアニア特許情報｣は，最新とは言えない情報も含め，会員に有用と思われる情報を掲載しています。内容については正確を期したつもりですが，二次情報もあり，必ずしも情報源への確認が充分と言えない場合があります。詳細については会員各位にてご確認下さい。

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