外国特許ニュース

IPランドスケープによる，イスラエルにおけるスタートアップ企業の事業／知財状況分析��

　国際第４委員会では、IPランドスケープの定義を、「JIPA会員企業、競合他社、市場の研究開発、経営戦略などの動向および個別特許などの技術情報を含み、会員企業の市場ポジションや出願戦略などを検討する上で有用な、現状の俯瞰・将来の展望などを示すもの」と定めて、グローバル企業の出願戦略などをひも解き、会員企業の皆様へ新たな気づきをお届けするための活動を行っています。
　今回は、��JETROテルアビブとの意見交換などを通じて得た、イスラエルの最新基本情報およびMobileyeの概要に続き、��Mobileyeの特許出願動向分析からIntelによるMobileyeの買収に関する考察についてお届けいたします。
  1. IPC分析による，Mobileyeの強み
    表１は，Mobileyeの特許ファミリーに付与されている主なIPCの上位10位をランキング化した表です。表１より，画像認識に関連するIPCであるG06K-009/00が最も多く，Mobileyeが画像認識技術を強みとしていることがうかがえます。一方，マップデータや経路探索，進路制御，衝突防止システム，自律運転制御，航行制御，自動衝突回避など，自動運転制御技術に関するIPCも上位に多く入っており，自動運転制御技術の開発にも力を入れていることが見て取れます。
    これら上位のIPCは，Mobileyeの戦略的目標，すなわち，単眼カメラを主体としたADASソリューションだけでなく，自動運転車向けのマップを生成する技術（REM）等を組み合わせ，レベル４以上の自動運転システムを市場に投入する，という目標と一致しており，Mobileyeが目標達成に向けて着々と特許ポートフォリオを構築していることがうかがえます。

    表１：Mobileyeの特許ファミリーにおけるIPC上位１０位

     　順位  　　　　　　主なIPC　　　　　　　　　関連する技術領域　　　　ファミリ数
     １  G06K-009/00  画像認識  30
     ２ G01C-021/32 マップデータ 9
     ３ G01C-021/34 経路探索 7
     ４ G05D-001/02 進路制御 7
     ５ G08G-001/16 衝突防止システム 7
     ６ G01C-021/36 入出力装置 6
     ７ H04N-007/18 閉回路TV方式 6
     ８ B60W-060/00 自律運転制御 5
     ９ G01C-021/00 航行制御 5
     １０ B60W-030/09 自動衝突回避 4

    【検索条件】

    • 使用DB：Orbit Intelligence
    • 検索日：2022年1月26日
    • 検索範囲：Mobileye保有の全特許
    • 検索式：((MOBILEYE)/PA/OPA)
  2. MobileyeとIntelとの知財シナジー
    MobileyeとIntelの保有技術の関連性を調べるため、まず、買収前の2012年〜2016年に出願された特許出願を母数に、両社の特許の類似性を調査しました。

    【検索条件】

    • 使用DB：Orbit Intelligence
    • 検索日：2022/1/27
    • 検索式：( (MOBILEYE)/PA/OPA ) OR ( ( (INTEL)/PA/OPA ) AND PRD=2012-01-01:2016-12-31 )


    図１：Mobileye全特許とIntel特許のランドスケープ図

    　図１は、Mobileye特許とIntel特許(優先日2012-2016年)とを合わせた合計16931ファミリーを母集団として、両社の特許のテクノロジークラスターを示すランドスケープ図であり、テクノロジークラスターが生じている領域を比較することで、互いが保有する特許技術領域の類似性を把握することができます。

    　図１において、まず、Intel特許を示す赤色の領域が大部分を占め、Ｍｏｂｉｌｅye特許を示す黄色の領域は、ほとんどありません。これは、MobileyeよりもIntelの方が、圧倒的に特許出願件数が多いためです。

    　その中で、Mobileyeの特許は、右下の領域に固まっていることが分かります。この右下の領域をさらに分析してみると、当該領域は、Mobileyeの強みである画像認識技術や自動運転制御に関する技術であること、さらに、この領域は、買収前のIntelのテクノロジークラスターには発生していない領域、すなわち、Intelが保有していない領域であることが分かりました。よって、Intelの立場からすると、買収前の段階において、Ｍｏｂｉｌeyeの特許が集中する右下の領域は、ＩｎｔｅｌとMobileyeのテクノロジークラスターが相互補完する重要な領域であると言えます。

    　さらに、買収後のMobileyeとIntelの保有技術の関連性を調べるため、買収以降、２０１７年〜２０２１年にMｏｂｉｌｅｙｅが、どのような技術領域の特許を多く出願しているかを調査しました。その結果、まず、表２に示すようにMobileyeは、IPCのG06K「グラフィックデータの認識」、B60W「車両の制御システム」、G06T「イメージデータ処理」、G01C「距離，水準または方位の測定」、G08G「交通制御システム」、G05D「非電気的変量の制御または調整系」の特許を多く出願していることが分かりました。一方で、これらのIPCに紐づくIntelの保有特許件数に占める出願割合は、いずれも５％をほぼ切る値を示し、「計算または計数」を示すG06K、G06T以外の車両運転技術に関する領域では、１％にも満たない結果となることが分かりました。
    　このように、IntelはMobileye買収後も、Mobileyeの強みとする特許技術領域では、ほとんど特許を保有していないことから、やはり、Mobileyeの技術力を手に入れることが買収の目的であり、買収後も、互いに技術領域を補完しながら、特許ポートフォリオをうまく構築していることが分かります。

    表２　Mobileyeの保有特許件数上位のIPCと当該IPCに対するIntelの保有割合

       Mobileye（％）  Intel（％）
     G06K  55.7  3.0
     B60W  32.2  0.3
     G06T 31.6 5.1
     G01C  31.0  0.5
     G08G 28.2 0.4
     G05D  27.6  0.6

    【検索条件】

    • 使用DB:BizCruncher
    • 検索日：２０２２年3月1日
    • 検索式：出願人　Mobileye、Intel
  3. 最終考察
    なぜ、MobileyeがIntelから買収されるに至ったのか？

    　以上より、Intelは、自動運転市場の覇権を狙い、画像認識などを含めた自動運転制御技術の技術補完を目的に、Mobileyeを買収したのではないか、と推測することができます。
    　また、図２に示すように、Mobileyeは、２０１７年以降、彼らが強みとするG06K「グラフィックデータの認識」、B60W「車両の制御システム」、G01C「距離，水準または方位の測定」、G08G「交通制御システム」、G05D「非電気的変量の制御または調整系」といった運転制御技術に関する特許の出願数を増加させており、件数的にも、Intelに買収される前と比べ、２倍以上の伸びを示していることが分かります。
    　このことから、両社は、買収によって、技術の相互補完を行いながら、その後も、互いに、強み領域を伸ばすような特許出願戦略をそれぞれ実行し、自動運転制御技術関連の開発において、技術シナジー効果を発揮していると言えそうです。


    図２：Mobileyeの特許出願推移（内訳：IPC、出願年：2010〜2020年）

    【検索条件】

    • 使用DB:BizCruncher
    • 検索日：２０２２年3月９日
    • 検索式：出願人　Mobileye

（注）｢アジア・オセアニア特許情報｣は，最新とは言えない情報も含め，会員に有用と思われる情報を掲載しています。内容については正確を期したつもりですが，二次情報もあり， 必ずしも情報源への確認が充分と言えない場合があります。詳細については会員各位にてご確認下さい。

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