専門委員会成果物

IPRにおけるPTABの決定に対してCAFCに控訴した場合の当事者適格の判断事例

CAFC判決 2021年12月28日
Intel Corp. v. Qualcomm Inc.

[経緯]

 Qualcomm Inc.(Q社)は,マルチプロセッサに関する特許8,838,949(’949特許)を保有しており,Q社は,Intel Corp.(I社)のベースバンドプロセッサを組み込んだ,Apple Inc.(A社)の製品が’949特許を侵害しているとして,A社に対して特許権侵害で地裁及びITCに提訴した。この提訴を受けて,I社は’949特許の請求項の範囲は非自明性を欠くことを理由としてIPRに申し立てしたが,PTABは一部の請求項に対する主張は認められないと決定した。このPTABの決定に対して,I社はCAFCに控訴をした。この控訴に対して,Q社はI社を被告として’949特許の特許権侵害の訴訟を提起しておらず,また訴訟を提起する脅しをしていないことから,CAFCに控訴するための当事者適格の要件として合衆国憲法第3章に定められる「損害」の要件をI社が欠いており,控訴は却下すべきと申立てした。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,I社はPTABの決定に対してCAFCに控訴する当事者適格を有すると判断し,Q社の申立てを却下した。
 CAFCは,Q社とA社との特許訴訟事件において,’949特許の請求項に記載された“a secondary processor”として特定された構成物を製造していることをI社は自認しただけではあるが,この構成物が発明の中心的な位置づけであることを考慮すると,製品テストにおける直接侵害訴訟の可能性及び誘因による間接侵害訴訟の可能性があると判断した。
 ここで,過去のCAFCに対する控訴の当事者適格に関連する判決(JTEKT Corp. v. GKN Auto. Ltd., 898 F. 3d 1217, 1221(Fed. Cir. 2018))では,「損害」とは単なる推測や仮説的なものではなく具体的に特定された「事実上の損害」であり,IPR請願人がこれを立証する義務があるが,侵害を認める必要はないと判示されてきた。
 したがって,本事例においては,CAFCは’949特許の存在によって,I社に対して発生しうる直接侵害訴訟若しくは間接侵害訴訟の危険性は単なる推測や仮説の域を超えて具体的に特定されており,I社が請求項に記載された構成物の製造を認めていることから,IPR請願人によって事実上の損害が立証されているとして,CAFCに控訴するための当事者適格の要件を満たすと判断した。

(青合 翔介)

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