専門委員会成果物

冠詞「a」で表現されたクレーム構成要件が広く解釈された事例

CAFC判決 2022年1月14日
Evolusion Concepts, Inc. v. Hoc Events, Inc., et al.

[経緯]

 Evolusion Concepts, Inc.(以下,E社)は,自社が保有する特許8,756,845(以下,’845特許)を侵害したとして,Hoc Events, Inc.(以下,H社)を地裁に提訴した。
 ’845特許は,銃器に弾薬を装填するマガジンに関するものである。マガジンには,外付けのもの(着脱式)と,銃器に内蔵されているもの(固定式)がある。侵害が主張されたクレームは,着脱式マガジンを備えた銃器を,固定式マガジンを備えた銃器に変換するための装置を対象としており,「a magazine catch bar(以下,マガジンキャッチバー)」という用語が含まれていた。
 地裁は,’845特許は,「the factory installed magazine catch bar」を取り外し,「a magazine catch bar」を取り付けることを要求するものであるとし,取り付けられるマガジンキャッチバーの冠詞に「a」が使われていることから工場で取り付けられたマガジンキャッチバー(以下,備付マガジンキャッチバー)は除外されるとした。H社製品は,固定式マガジンを備えた銃器に変換する工程において,備付マガジンキャッチバーを再利用し装着するものであるため,地裁は,H社は’845特許を侵害していないとする略式判決を下した。
 E社は,地裁判決を不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,「マガジンキャッチバー」という用語には,工場で取り付けられた備付マガジンキャッチバーが含まれるとし,地裁判決を破棄し,差し戻した。
 CAFCは,’845特許の方法クレームには,備付マガジンキャッチバーを含むマガジン周囲の部品を取り外し,新しい装置を取り付けることで,固定式マガジンを備えた銃器に変換する工程が記載されており,その工程は,取り付ける装置の一部品として備付マガジンキャッチバーを再利用することを排除するものではなく,また,「新しい」あるいは「異なる」マガジンキャッチバーを取り付けることを要求していないとした。
 上記解釈に関連して,マガジンキャッチバーに使われる冠詞が「the」や「said」であった場合,マガジンキャッチバーが備付マガジンキャッチバーのみに限定されてしまうが,「a」とすることで,マガジンキャッチバーには,備付マガジンキャッチバーも新しいマガジンキャッチバーも含まれると判断した。
 加えて明細書においても,備付マガジンキャッチバーとは異なるマガジンキャッチバーのみを利用できるとは記載されておらず,備付マガジンキャッチバーの再利用を妨げることを示唆する記載もないとした。

(安藤 美久)

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