国際活動

WIPO-SCP (Standing Committee of the Low of Patents) 27th sessionへの参加

 2017年12月11日〜15日、スイス・ジュネーブで開催されたWIPO第27回Standing Committee on the Law of Patents(SCP:特許法常設委員会)会合に、医薬バイオテクノロジー委員会から迫 敏史 氏(委員長) を派遣しました。
 この委員会は、特許法の国際的な発展に関して、先進国と途上国が会して問題を議論したり、連携を進めたり、指針を与えたりするために、1998年に創設されたものです。最近は年2回開催され、 世界各国の政府機関代表者、並びにオブザーバーとしてNGO等からの代表者が参加して議論が行われています。JIPAは発言権をもつ公式オブザーバーです。
 WIPO-SCPでは「Exceptions and limitations to patent rights(特許権の例外と制限)」、「Quality of patents(特許の質)」、「Patents and health(特許と健康)」、「Confidentiality of communications between clients and their patent advisors(クライアントと特許アドバイザー間の秘密保持)」および「Transfer of technology(技術移転)」の5つの主議題を中心に議論が行われています。特に新興国に おけるAccess to Medicineを改善するために、TRIPS flexibility(自由な特許性基準設定、強制実施権など)の最大限活用、医薬品価格並びに医薬関連特許情報の透明化などを中心に医薬品に関する特許制度に 対して新興国側から厳しい意見が出ております。そのため、引き続き先進国側の意見の後押しを行うため医薬・バイオテクノロジー委員会から代表を派遣しました。特に新薬創出における特許制度の重要性や 医薬品産業界のAccess to Medicineに関する取り組みを必要に応じて表明できるように、日本製薬工業協会(製薬協)と連携してステートメント(意見表明)案を作成し、参加前に日本国特許庁とも相談し、 会議に参加致しました。
 アルゼンチンの産業財産権庁の長官が議長として選出され、5日間の議論がスタートしました。特に先進国側と新興国側で意見が大きく対立している特許と健康の議題について報告いたします。

特許と健康に関する議論:
 今回は情報シェアセッションが中心ということで、関連団体から医薬関連特許情報とAccess to Medicineに関するプレゼンテーションが行われました。まずはWHOより医薬関連特許情報についての 各種調査報告の紹介があり、医薬関連特許情報の正確な入手の困難性について言及されました。続いてNGOであるMedicines Patent PoolからHIVやC型肝炎等に関する医薬についてlow- and middle- income国における特許並びにライセンス情報をまとめたMedsPalというデータベース(http://www.medspal.org/)の紹介がなされました。これに対し、IFPMAからはWIPOと共同で開発を行っている医薬品 関連特許情報をまとめたデータベースであるPat-INFORMEDについて言及したコメントがなされ、次回のSCPで紹介することを提案されました。
 Access to Medicineについては、WHOからはC型肝炎の治療薬の事例が紹介され、高薬価を問題視し、特許による競争排除が大きな原因の一つである旨報告されました。WTOからはTRIPS協定における 強制実施権の実情、医薬品輸入におけるコスト等について説明がありました。
 その後の議論においては、従来と同様、新興国側からは国連ハイレベルパネルのレポートに言及しつつ、TRIPS flexibilityの最大活用、INNの特許中での開示などを要求する声が出ておりました。一方、 先進国からは、特許制度はイノベーションへのインセンティブにつながり、新興国においても有用な革新的な医薬品開発のためには必要不可欠なシステムであることAccess To Medicineの向上には多くの ファクターが 関与していることなどを主張していました。また、JIPAからも先進国側の意見をサポートするために準備していたステートメントを出しました。具体的には、特許制度は新興国および 先進国の両方における医薬品の 開発促進のために重要であることを主張すると共に、日本の製薬企業が新興国におけるAccess To Medicine向上のために取り組んでいる事例を紹介しました。 新興国側及びMSF(国境なき医師団)からも特許制度の イノベーションへの寄与については認めている旨の発言がなされていたのが印象的でした。今までの先進国側からの発言の成果かと思います。
 今回の会合でも先進国側のNGOとして、事前に日本国特許庁、 製薬協等と協働しながら準備を行い、ステートメントを表明することができたことは大きな成果になりました。今後も特許制度のユーザーである 産業界の取り組みを紹介しながら、医薬品に対する適正な特許保護を継続して求めて行く必要があると思います。

 写真は日本国特許庁を含めた日本政府代表団とのものです。(左端:筆者)

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