国際活動

WIPO-SCP (Standing Committee on the Low of Patents) 29th sessionへの参加

 2018年12月3日〜6日、スイス・ジュネーブで開催されたWIPO第29回Standing Committee on the Law of Patents(SCP:特許法常設委員会)会合に、医薬バイオテクノロジー 委員会から 里山 雅也 氏(第3小委員長)を派遣しました。
 特許法常設委員会は、特許法の国際的な発展に関して、先進国と途上国が会して問題を議論したり、連携を進めたり、指針を与えたりするために、1998年に創設されたものです。 最近は年2回開催され、 世界各国の政府機関代表者、並びにオブザーバーとしてNGO等からの代表者が参加して議論が行われています。JIPAは発言権をもつ公式オブザーバーです。

 近年、特許法常設委員会では「Exceptions and limitations to patent rights(特許権の例外と制限)」、「Quality of patents(特許の質)」、「Patents and health (特許と健康)」、 「Confidentiality of communications between clients and their patent advisors(クライアントと特許アドバイザー間の秘密保持)」および 「Transfer of technology(技術移転)」の 5つの主議題を中心に議論が行われています。特に途上国からは医薬品アクセス改善のため、TRIPS flexibilityの最大限活用 (自由な特許性基準の設定や強制実施権の設定など)や医薬品 価格並びに医薬関連特許情報の透明化などを求める厳しい意見が続いています。そのため、それに反論する 先進国側の意見の後押しを行うため、本年も医薬・バイオテクノロジー委員会から代表を派遣しました。特に新薬創出における特許制度の重要性や日本の製薬企業の医薬品 アクセス問題に対する取り組みについて日本製薬工業協会(製薬協)と連携してステートメント(意見表明)を作成し、日本国特許庁とも相談したうえで会議に参加しました。

 前回に引き続き、アルゼンチンの産業財産権庁の長官が議長を務め、4日間の議論がスタートしました。以下で先進国側と途上国側で意見が大きく対立している特許と健康の 議題について報告いたします。

特許と健康に関する議論

 初めに、医薬品やワクチンにおける特許情報に関する公衆がアクセス可能なデータベースについての、半日の会議が開かれました。Medicines Patent Poolという NGOからHIVやC型肝炎等に関する医薬についてlow- and middle- income国における特許並びにライセンス情報をまとめたMedsPalというデータベース(http://www.medspal.org/) の紹介がなされました。続いて、IFPMAとWIPOからは、両者が共同で開発を行い、今年9月末にローンチされた医薬品関連特許情報をまとめたデータベースであるPat-INFORMED (https://www.wipo.int/patinformed/)の紹介がなされました。

 続いて、ライセンス交渉に関する実務家の経験の共有のセッションが行われました。
その間に、General Statementsが各国からなされましたが、これまでと同様に、途上国側からは、国連ハイレベルパネル(UNHPL)レポートのrecommendationを 特許常設委員会で議論すべきとの提案や、TRIPS flexibilityの最大活用による医薬品アクセスの改善等を求める声があがりました。これに対し先進国側からは、 特許制度はイノベーションへのインセンティブにつながり、途上国においても有用な革新的な医薬品開発のためには必要不可欠なシステムであること、医薬品アクセス 問題には多くのファクターが関与しており、包括的に検討することが必要であること等が引き続き主張されていました。

 JIPAからも先進国側の意見をサポートする形で準備していたステートメントを発表しました。具体的には、特許制度は途上国および先進国の両方で有用な医薬品の 開発促進のために重要であること、医薬品アクセス問題には特許以外の多数の要因が関与していると考えられること、日本の製薬企業が医薬品アクセス向上のために 多数の取り組みを行っていること(顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases, NTDs)に関する事例)を紹介しました。

 今回のJIPAのステートメントは、特許制度が有用な医薬品の開発促進のために重要であるという点に触れたうえで、具体的に日本の製薬会社の途上国での医薬品供給に 資するプロジェクトの事例を紹介しており、適切なタイミングで適切な主張ができた大きな成果と考えます。General Statementsにおいても、途上国側も先進国側も 特許権者と公衆の利益のバランスを考慮する必要があるという主張では一致をみており、どちらにより重きを置くかという観点の相違のみになっているように感じました。

 今後も粘り強く、特許制度のユーザーである産業界の事実に基づく取り組みを紹介することが、特許と健康セッションにおける議論を健全かつ建設的な方向に導き、 最終的に各国における医薬品の適正な特許保護につながるものと考えます。
 尚、今回の参加についての詳細は、追って、知財管理誌にて報告の予定です。  

 写真(左)は各国からオブザーバー参加している団体(国際弁理士連盟、欧州特許庁代理人協会、日本弁理士会、アジア弁理士協会)とのものです。(右から2番目が里山氏)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.