国際活動

WIPO-SCP (Standing Committee of the Low of Patents) 30th sessionへの参加

  2019年6月24日〜27日、スイス・ジュネーブで開催されたWIPO第30回Standing Committee on the Law of Patents(SCP:特許法常設委員会)会合に、医薬バイオテクノロジー委員会から 寺内 輝和委員長が参加しました。
 近年、途上国から医薬品アクセス改善のため、TRIPS flexibilityの最大限活用(自由な特許性基準の設定や強制実施権の設定など)や医薬品価格並びに医薬関連特許情報の透明化などを求める意見が続いています。そこで前回同様に新薬創出における特許制度の重要性や日本の製薬企業の医薬品アクセス問題に対する取り組みについて、日本国特許庁とも事前に連携したうえで日本製薬工業協会と連名でステートメント(意見表明)を行いました。
 以下で先進国側と途上国側で意見が対立している特許権の例外と制限/特許と健康の議題について報告します。

特許権の例外と制限/特許と健康に関する議論

 前回同様に、途上国側からは、強制実施権を含むTRIPS flexibilityの最大活用による医薬品アクセスの改善、Affordable Priceでの医薬品供給を求める声があがりました。今回は、特許権の例外と制限の議題で、WIPO事務局がドラフトした強制実施権に関する参照書面(reference document)の紹介があったため、途上国側から強制実施権の設定が医薬品アクセスの改善につながるという主張が多数あがりました。これに対し先進国からは、特許制度はイノベーションへのインセンティブにつながり、途上国においても有用で革新的な医薬品開発のために必要不可欠なシステムであること、医薬品アクセス問題には特許以外の多くのファクターが関与していることなどが引き続き主張されていました。

 JIPAからも先進国側の意見をサポートする形でステートメントを出しました。具体的には、新薬の開発は途上国における医薬品アクセスの向上に重要であること、革新的な医薬品の開発は非常に困難性が高く、また、成功確率が極めて低いため、イノベーションに対するインセンティブを失わないように特許制度を運用することが重要であること、医薬品アクセス問題には特許以外の多数の要因が関与していると考えられること、この考えに基づき日本の製薬企業が医薬品アクセス向上のために多数の取り組みを行っていること(三大感染症であるマラリアや顧みられない熱帯病であるデング熱に対する取り組み)、さらに、WIPOとIFPMAのコラボレーションによって構築された医薬品特許情報データベースPat-INFORMEDへの日本企業の参加状況を紹介するとともに、この日本企業の取組みが特許情報への医薬品流通業者のaccessibilityの向上に役立つことを主張しました。

 Accessible/Affordableな医薬品の供給とイノベーションの保護のバランスが重要であるとの発言が多数なされているように、現在の議論は、特許の存在が医薬品価格に影響を与えており、医薬品アクセス問題の主要な原因であるとする途上国の主張と、医薬品アクセス問題には特許以外の多数の要因が関与しているとする先進国の主張が対立していて、議論が平行線になっています。

 今回のJIPAのステートメントのように特許制度のユーザーである産業界の事実に基づく取り組みを引き続き粘り強く紹介することが、本委員会の議論を健全かつ建設的な方向に導き、最終的に医薬品の適正な特許保護の維持・向上につながるものと考えます。

 尚、今回の参加についての詳細は、追って知財管理にて報告の予定です。

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